IoTはバズワードではない
ZDNet:IoTというワード自体は広まったと思うのですが、2017年現在、顧客との話などを通して、IoTへの期待をどういった点で感じられるかについて、事業環境の変化と新たなビジネスモデルをお話いただければと思います。
八子氏:この3月20~24日にドイツのハノーバーで開かれたCeBITに、大手も中堅も含めて118社と過去最大の出展をしていたことが象徴的です。JETROが旗振りをして、民間がそれに応じ、海外へ本格的にアピールするような、日本の技術を使ったIoTの在り方を持っていったということです。2016年のハノーバー・メッセで、ドイツと日本は、今後標準化においては手を握ろうという話をしましたし、秋には米国のIIC(Industrial Internet Consortium)と、オープンフォグコンソーシアム、と日本のIT推進コンソーシアムがMOU(了解覚書)を取り交わして、標準化や総合連携を決めました。
面白いビジネスモデルを作るために、グローバルプレイヤーは、すでに国という境目を越えて議論するところから始まっています。なおかつ、日本からの製品やサービスの事例の出展が概ね好評だったということで、地道に取り組んできた結果、IoTがバズワードではなくブレイクし始めたという印象があります。IoT推進室やIoTプロジェクト自体は、2年前から数多くありましたが、ほとんどが様子見の状態でした。
しかし、この1年くらいで本格的に取り組んできた人達の結果が、CeBITへの出展などにつながったという実感があります。地方に行っても「地方版IoT推進ラボ」が立ち上がり、53の自治体が手を挙げていて、ものすごく盛り上がっています。私もこれまで10以上の自治体に呼ばれて講演に行きました。
エスキュービズム 取締役 武下真典氏
玉川氏:私もCeBITに出ていて、IoTへの期待というのはまさに感じているところです。少し違う軸でお話すると、テクノロジの成熟度も大きいと思っています。振り返ると、インターネットが登場して、eコマース、スマホ、クラウド、シェアリングエコノミーというキーワードが出てきました。テクノロジが整ったからこそ、「こういうのができたらすごいな」というビジネスが現れており、ビジネスとテクノロジの両輪で何かが動き出すところがあると思っています。
IoTにおいては、クラウドの進化は非常に大きいですし、ディープラーニングによってビッグデータを解析する手段が手に入りました。Raspberry Piに代表されるような、コンピュータメーカー側の低価格化や、廉価でいろいろな種類のセンサが出てきたという背景もあります。
われわれが取り組んでいる通信もLPWAと言われているLow Power Wide Area Networkからも、より低消費電力で高位機能のネットワークが出てきているので、IoTをやるためのピースは、テクノロジとしては一通り整ってきていると思います。だとしたら、誰がそこで、今まで見えていなかったキラーアプリケーションやキラービジネスを作るのかが次の話題です。「もう動いているかもしれない」とみんな思っているところではないでしょうか。
武下氏:われわれは2016年秋に、500人くらいを集めてIoTカンファレンスを開催しました。その時に会場アンケートで「IoTの組織は自社内で立ち上がっていますか」という質問をしたら約20%は組織があると答えていました。組織が立ち上がっているということは、結構前のめりでやっているのだなと感じています。「IoTはどれくらいで自社のビジネスにインパクトを与えますか」という質問では、「1年はちょっと早すぎるけど、5年後くらいには自社ビジネスの中核を担っているだろう」という割合が結構多くて、企業の人達は、長期的に自分たちの仕事のメインストリームをIoTにしようとしていると感じています。「IoTというキーワードは今後どうなりますか」という質問で一番多かった回答は、「キーワード自体は消えていく」というもので、「細分化されたキーワードになって発展化していく」という答えもありました。
アンケートを取って感じたのは、IoTというコンセプトがあって、それをみんなが解釈して、それぞれのビジネスで成果を出したい、出さないといけない時期なのだろうということです。日本の企業は”イノベーション”がすごく好きなので、IoTも当然関連するのではと、経営層は新しい光を見出しているのではないかと思っています。解釈はもう終わったと思うので、今後は企業が成果につなげていくフェーズに入るのではないでしょうか。
<第2回へ続く>