ZDNet:一般に、アジャイル開発が規模の小さいシステムに向いているというのは、いわゆる情報処理の教科書に書いてあるところだと思います。全体の統一的なシステムを作ろうとした時に、アジャイルの作り方だと何らかの課題があると思うのですが、それを解決しながらも、アジャイル的な作り方で大きな規模のものを作っていく方法論はあるのでしょうか。
ウフル 専務執行役員 IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼氏
八子氏:最近で言うと、デンソーはクラウドのビジネスについて新たに人を採用し、 IT部門ではないところにIoTのプラットフォームをアジャイルで開発する部門を作りました。
今、その部門は「デジタルトランスフォーメーション部」を名乗っています。既存のITとは違う組織と開発方法論を持ったミッションを、作らざるをえないということです。いわゆる「バイモーダルIT(運用とイノベーションに並行して取り組むIT)」の考え方です。
例えば基幹系のシステムや会計、人事のシステムなどのサービスを作る際は、これまでのウォーターフォール型でも有効でしょう。
IoTのシステムを検討するなら、ボリュームが変わってくると思います。これまでと全然別のサイクルや開発手法、ないしはアジャイルのような考え方によって対象となるシステムをどんどん小さくすること。さらに先ほど松島さんのコメントのように、協調領域でつむぐデータは基本的にオープンにすることが重要と思います。
例えば基幹系のシステムや工場のデータをオープンにすることには反発もあるでしょうが、顧客とのタッチポイントでは柔軟にデータを流通させることでうまく課金をすることも重要で、そう考えると開発の手法も(UI/UXの観点から)柔軟である必要がありますよね。
データをうまく活用することについて、システムの運用をしてきたこれまでとは違うミッションを持ち、違うスキルセットでやらざるを得ないと思います。
武下氏:私がビジネスをやっている小売りや飲食のサービスでは、「IoTはビッグデータと常にひも付けてはいけない」という考え方もあると思います。データが多い方がわかることもあるのですが、「一人の顧客からわかること」もある。IoTとビッグデータを結びつけるのがもったいない場合もあります。
それは、どんなユーザーがどんな業界にお金を落としているかは非常に重要なので、それがわかるようにするということです。
例えば写真のプリントをする人の属性は、被写体を見たら一発で分かります。山が写っているのか、バイクが写っているのか、子供が写っているのかでその人の属性が出てきて、その人がいつ頃、お金を落とすのか、例えば七五三だと分かれば、じゃあ子供の年齢を入れさせましょう、という話になる。
それは個人にひもづくスモールデータです。スモールデータも重要、金脈であると思っています。
<第5回へ続く>