もちろん「カッコいい」は人によって違う。「銀色でつるつるした流線型の未来っぽさ」を好む人もいれば、「モダンで無機質なミニマムデザイン」を好む人もいる。「レトロで無骨なメカむき出しルック」がたまらないという人もいる。「近年のiPhoneはダサくて我慢できない。石鹸皿みたいだった3GSが最高!」と主張してやまないのは……筆者だ。

iPhone 3GS
一方、テクノロジの向かう先は、「多機能化、高速化、大容量化、省スペース化、省エネルギー化」でおおむね見解が一致している。大多数の人が求める「正解」が存在するのだ。しかしデザインに「正解」はない。
だから、デザインに関してデベロッパーが何か努力できることがあるとすれば、そのテクノロジを受け入れてもらいたい集団が好むデザインを、徹底的に考え尽くすことだろう。
いかにも未来っぽいデザインのスマートウォッチの売れ行きが悪いなら、アナログ時計の外装にしてみるという手もあるわけだ。それで別の客が獲得できることもある。
魅力的なプロダクトデザインは、むき出しで無愛想なテクノロジと「80%の一般人」とをつないでくれる。
飛行機やバイクに使用されているテクノロジに興味がなくても、メーヴェや金田バイクのデザインを「カッコいい」と思う人はたくさんいる。
メーヴェを模したパーソナルジェットグライダーを製作する八谷和彦氏のプロジェクトが10年以上も継続していたり、金田バイクの外装を模したカスタムバイクやコンセプトモデルが定期的に話題となるのは、両者のデザインが時代を超えて人を魅了するからだ。
いずれにしろ、「80%の一般人」は、剥き出しでドヤ顔のテクノロジにはカネを払わない。
多少不経済でも、必ずしも最先端ではなくても、「美しい」とか「ロマンチック」とか「愛らしい」ものにカネを払いたいと思う。Apple製品が最先端スペックでも安価でもないのに、ある時期まで飛ぶように売れていた理由のひとつも、これだ。
クルマで言えば、リッターあたりの燃費を鬼のような形相であと0.1km向上させるより、もう少しデザインをアレしたほうが売れるのでは、というケースもありそうだ。
たとえば、そう、最先端テクノロジの結晶であるハイブリッドカー「プリウス」……の話をしようと思ったが、長くなりそうなので、今回はこの辺で。
- 稲田豊史(いなだ・とよし)
- 編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。
著書に『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。
手がけた書籍は『ヤンキー経済消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。 「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細)