80年代の日本でファミコンがあれほど大ヒットしなければ、「移動は左手、アクションは右手」が当たり前にならなかったかもしれない。この際、人間工学的にどっちのUIがより適正なのかは、どうでもいい。人間はあるUIに触れる時間が長ければ長いほど慣れ、それを「快適」のデフォルトに設定する。
「慣れ」に逆行するUIとして思い起こされるのが、トヨタのハイブリッドカー・プリウスのシフトパターンだ。プリウスのシフトレバーは右下がD(ドライブ/前進)で、右上がR(リバース/バック)。これは右下がRであるマニュアル5速車と逆であり、マニュアル車に慣れた高齢者が「R(後進)に入れたつもりでD(前進)に入れてしまい、事故の原因になっているのでは?」という都市伝説じみた話の根拠ともなっている。
事故の原因がUIにあるかどうかは定かではない。ただ、長年親しんだUIの「慣れ」を無視すべきではないのも事実。人気格闘ゲームのシリーズが、新作を出しても基本的に必殺技などの操作系を変更しないのは、今までのユーザーを手放したくないからだ。散々練習して出せるようになった(格闘ゲーム ストリートファイターシリーズの必殺技)昇竜拳のコマンド「→↓↘P」が、新作では「↑P」に変更されました……となったら、ユーザーは離れていく。多分。
後期ファミコンブームをけん引したRPG「ドラゴンクエスト」シリーズ(1986年〜)のUIは、筆者も含むあまねくすべての小学生に「ウインドウ表示」と「情報の階層的把握」の概念を植え付けた。現在アラフォー世代の彼らが社会人になったばかりの頃、会社に本格導入されたPCにはWindows 95が載っていたが、ウインドウ表示によるGUIとフォルダ(階層構造)の概念を、他のどの世代よりもスムーズに理解することができたのは、幼い頃浴びるようにプレイした初期「ドラクエ」シリーズのおかげだった……という説は、まんざら的外れでもなかろう。
それゆえ、世代によって「快適なUI」が異なるのも不思議ではない。スマホネイティブの若者は縦画面とフリック入力が最高に「快適」なので、ちょっとした大学のリポート程度ならスマホのフリック入力で仕上げてしまう。逆に、横画面とキーボード入力のPCは苦手だ。10余年ほども遡れば、ケータイ小説をすべてガラケーのトグル入力(テンキーの「1」を1回押すごとに「あ→い→う→え→お」などと順次表示される入力方法)で書く作者もいた。