他方、インターネット広告市場規模が1兆円超とテレビに次ぐ規模に成長したネットメディアは、何らかの目的や意図を既に持つ人に対して、そのために必要な情報を提供するのに適している。
企業の側から見れば、ユーザーの要望を把握し、自社製品に関心を持つ可能性が高い顧客を見出し、リーチできるメディアと言える。
先程と同様に旅行に例えると、ネットメディアは沖縄旅行に行きたい人に、「このホテルに泊まろう」とか「あのレストランで食事をしよう」という「判断」を支援できる。
Googleで「沖縄 旅行」と検索すれば、ユーザーにとって有益な情報が表示される。オンライン旅行代理店であればホテルを、グルメサイトであればレストランを探すことが可能だ。
お金に関する課題を持ち、その解決策を判断するための情報をネットで探すユーザーが多数存在するのであれば、FinTechサービスにはネットメディアを活用したウェブマーケティングが有効である。
ネットのユーザー層は比較的若く、当然ながらITリテラシーも高い。多くのFinTechが対象とする、資産形成層と言われる多忙な30~40代でも、移動の際の隙間時間にスマホで情報収集はしている。

しかし、従来のウェブマーケティングでFinTechが獲得できる顧客は、あまり多くはないと懸念される。日本銀行券はあまりに便利で、相手に受け取ってもらえなかったり、偽札をつかまされたりする心配はない。
銀行口座を作れない人はほとんど存在せず、筆者の母ですら年金生活の身でクレジットカードを使っている。
急な物入りがあっても、消費者金融や銀行のカードローンでお金を借りることができる。デフレの時代には資産運用に取り組まなくても何も困らなかった。
お金に関する課題を抱え、その解決策をネットの情報に求める人は限られると思われる。
ユーザーの気持ちを変化させるウェブマーケティングの登場
これまでの考察では、FinTechのマーケティングでは、ネットメディアのように比較的年齢層が若くITリテラシーが高いユーザーを多く抱え、マスメディアのようにFinTechを利用したいとユーザーの気持ちを変化させる、ネットとマスの両方の特性を兼ね備えた都合の良いメディアが必要となるという仮説を立てた。
ユーザー層を考えると、ネットメディアがマスメディアのような影響力を持つようになるのが望ましいだろう。
もちろんウェブマーケティングの世界で、そのようなメディアを実現しようとする取り組みがなかったわけではない。
ただし、そうした取り組みは苦戦を強いられてきたと、筆者は認識している。なぜなら、ネットのテクノロジは、ユーザーが関心を持つ情報を提供し、そうではない情報は提供しない方向に進化してきたためである。