グルメメディア「favy」の事例
こうした新しいウェブマーケティングに取り組む企業の中で、筆者が最近注目しているのがグルメメディアの「favy」である。グルメメディアと言えば、ぐるなびと食べログが圧倒的な実績と存在感を誇っており、新規参入の余地などほとんどないように思われる。
ただし、このグルメメディアの2強を利用するのは、既に外食すると意思決定しているユーザーがほとんどだろう。
実際に自分がぐるなびや食べログを利用するシーンを思い浮かべてみると、行くお店が決まっていてその情報を得るために検索エンジン経由でアクセスするか、外食するために目的に合致したお店を探す場合であり、これらのサイトを見ていたから外食をしたくなったという経験はほとんどない。
一方、favyは読んでいるうちに外食したくなるという効果を企図して記事を制作している。
そして、外食への関心が低い層にもリーチできるよう、「分散型メディア」としてFacebookアカウントのタイムラインに記事を流したり、場合によってはインフィード広告やリスティング広告を活用したりすることで、新たな外食ユーザーの開拓に努めている。
この世に食事をしない人はいないし、美味しそうな料理の画像や動画を見ていれば、外食に関心がない人でも、食欲をそそられて食べに行きたくなることは十分にあり得る。
一方、それと比べれば、金融に関心がない人にFinTechを利用してもらうようになるコンテンツを制作するのは難易度が高いかもしれない。
だからといって新たなユーザーを開拓に取り組まなければ、ネットではユーザーが関心を持つ情報を提供する技術だけが進歩し、マスメディアを利用しない層が拡大した結果、日本人の金融に対する関心はますます低くなると懸念される。
効果が出るまでに時間がかかるかもしれないが、金融機関とFinTechベンチャーは、ウェブマーケティングの新潮流に対応し、FinTechユーザーの開拓に努める必要がある。
- 小川久範
- 日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。560本以上の企業レポートを執筆し、数十社のIPOに関与した。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に、4年間に亘り調査を行ってきた。2014年10月には、国内初のFinTechに関するレポートを執筆した。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。