ITシステム「2025年の崖」の克服――。経済産業省が2018年9月7日、こんなキャッチを付けたDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートを発表した。内容は、今のレガシーシステムを放置したらデジタル時代の波に乗り遅れるとし、2025年までにシステム刷新を迫るものに見える。だが、真の狙いはIT業界に構造改革を促すことにある。デジタル化が進展しない最大の原因はIT企業側にあるからだ。
レガシーシステムが阻むデジタル化
経産省が「崖」と表現した理由を考えてみる。人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、ブロックチェーン、拡張現実(AR)/仮想現実(VR)など、デジタルの活用が広がっている。マイクロサービスやアジャイル開発といった新しい開発手法も生まれている。だが、ユーザー企業のシステムはそれらを取り入れられる環境が整っていない。一から作り込んだ固有システムや統合基幹業務システム(ERP)などのパッケージソフトを大幅にカスタマイズしたシステムが保守・維持に多大な時間と費用を掛けざるを得なくした。クラウドへの移行がなかなか進まなかったのは、その典型だろう。
IT人材のひっ迫も新しいテクノロジの導入を阻む。10年以上前から質と量の両面でIT人材不足を感じている企業が多くあったが、一向に解消されない。IT活用によるビジネスへの成果を期待していないからだろうか。新しいビジネスを創出する必要性もなかったからだろうか。いずれにしろ、IT企業に丸投げした結果、システムはブラックボックス化し、さらに肥大化・複雑化していった。効率化など投資効果を測る術はないし、障害が発生しても問題箇所がなかなか分からない。システムの保持・運用にIT予算の8割を割くことになる。
そうした中で、ユーザー企業はようやく「レガシーシステムがDXの足かせになっている」と気が付き始めた。だが、IT部門で課題解決に当たれる人材は少ない。経営者にも問題がある。「業務に新たな価値を生み出さない」や「投資効果は期待できない」「企業文化になじまない」などDX化に否定的な意見を述べる。「当社のAI活用はどうなっているのか」とIT部門に尋ねる経営者もいるが、IT部門は「PoC(概念実証)を検討する」と答える。経営者から言われたから取り組むので、どんなデータをどう活用し、ビジネスを変革することに無関心だ。そもそも目的が理解していないので本格導入には至らない。
言われたものを作り上げる請負体質のIT企業に、クリエイティブな提案を求めるのも酷である。彼らの収益は大量の人員を開発に投入する人月ビジネスにある。加えて、リスクを徹底的に管理するSI文化は失敗を許さないので、新しいことにチャレンジをさせない。「そんなIT企業にデジタル化を求めるのは無理」と、あるIT企業の経営者は語る。「そもそもユーザーが求めていない」とトレンドを読めない経営者もいる。