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「データ無意味化」で情報漏えいリスクを排除--セキュリティベンチャーの挑戦

田中克己 2019年02月18日 07時00分

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 情報漏えいに関する事件や事故は毎日起きているといっても過言ではない。原因には、PCの紛失・盗難や置き忘れがある。不正アクセスやパスワードが盗まれることもある。いずれにしろ、個人情報が流出すれば、社会的な信用を失うことになりかねないので、多くの企業がさまざまなセキュリティ対策を施す。

 だが、完璧な防御策はない。そんな企業に、データを無意味化する安価な対策を提案するのがITセキュリティベンチャーのZenmuTechだ。簡単に言えば、データを意味のないものに変換した後、複数の場所に分けて保存する仕組みである。パスワードがない暗号化ともいえる。同社の田口善一社長は、それを実現する秘密分散と秘匿計算の2つの技術を紹介する。

秘密分散と秘匿計算の2つの技術を使うZenmuTech

 田口社長はZenmuTechを2014年3月に設立する以前、ハーネス有限責任事業組合でIT業界のM&A(合併・買収)仲介ビジネスを手がけていた。仮想化デバイスなどを販売するシンクライアント・ソリューション総合研究所を設立もした。そうした中で、データを無意味化して分散管理する秘密分散技術を使ったセキュリティソフトが売り出されたことを知った田口社長らは半年ほど調査し、その権利を買い取った。

 処理速度や使い勝手などユーザーインターフェースを半年ほどかけて改善し、2016年にPCやサーバ向け情報保護ソリューション「ZENMU」として提供を開始した。田口社長は「秘密分散は昔からある技術で、いろんなところに使われている。だが、秘密分散を前面に出して商品を作った例は少ない」と、秘密分散とデータを無意味のまま演算処理する秘匿計算の2つのテクノロジを使って実用化したZENMUを自慢する。

 同社の松倉泉氏によると、データにカギをかける暗号化を高度化しても、守るのは人とパスワードになる。PCの場合、どうしても覚えやすいパスワードにするので、人とパスワードにリスクが集中してしまう。そこで仮想化環境やシンクライアント方式を採用する。「データを端末以外の場所に置くので安心だが価格が高い。ネットワーク環境がないと使えない」(田口社長)。つまり、オフライン状態では端末が使えないということだ。

 ZenmuTechは、そうした暗号化に代わるソリョーションとしてZENMUを提案する。「価格も仮想化環境の20分の1~30分の1になる1台当たり800円以下」(田口社長)と安価だという。現在、富士通や住宅設備機器のLIXILなど50社超の企業が社員用PCに採用する。PCとUSB、PCとスマートフォンにデータを分けて管理するケースが多いという。例えば、USBをPCに差し込むと、無意味化した2つのデータが1つになり、データが復元される。USBを抜くと、一片のデータが欠けるので画面は文字化けする。そんな仕組みだ。

 実は、発売当初は苦戦をした。「提案すると、『いいね、検討するよ』と言ってくれる」(田口社長)が、契約までの時間がかなりかかる。採用が見送られることもある。安くて良いものなら売れそうに思えるが、大企業はベンチャー企業の製品、しかもセキュリティ製品の採用に慎重になるからだろう。そのベンチャー企業への信頼もあるだろう。

 一方、採用が決まる場合は、決定権と発言力、そして技術を評価できるIT部門の責任者がいることが多いという。「ある企業のCIO(最高情報責任者)は良い物ならベンチャーの製品を使う。それが大企業の務めだ、と言って採用を決めてくれた」(松倉氏)。最近は、導入したシンクライアントのリースが終わった企業がZENMUに切り替えることも出てきたという。

 ZENMUに追い風も吹き始める。「内閣府が推進するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の3分野に秘密分散が入ったこと」(田口社長)で、2018年11月にSIPのある共同研究機関への参画が採択された。産業技術総合研究所(産総研)と秘匿計算技術の実用化に向けた取り組みも開始する。2017年には日本情報システム・ユーザー協会が開催したピッチコンテストでベストアワード、2018年には電子情報技術産業協会のベンチャー賞を受賞する。田口社長は「秘密分散がパスワードに代わるソリューションとして、認知されてきた」とうれしそうに語る。

グローバル普及を図るため、エンジン供給にも力

 ZENMUはPCという端末向けビジネスとしてスタートしたが、その応用はどんどん広がる可能性がある。その普及スピードを速めるため、ZENMUのエンジンをOEM供給することにした。「自社だけではアイデアも体力も限界がある。いろんな企業にZENMUをエンジンに使った製品を開発してもらった方が普及する」(田口社長)

 既に複合機メーカーや電機メーカーなど20社程度と話し合いを進めている。例えば、日立システムズエンジニアリングサービスは大容量データを海外拠点などに高速に安全に転送するデータ転送サービスに組み込む。三井E&Sシステム技研はメールの添付ファイルを安全に送信する仕組みに活用する。

 この他の用途も考えられる。スマートフォンで写した写真をクラウドとスマートフォンに分散して保存すれば、2つを組み合わせなければ復元できなくなる。医療画像データを同様な方法で扱えば、安全性が増すという。認証にも使える。コンサート会場と申し込んだ個人のスマートフォンのデータが一致したら認証されるといった用途だ。「無限の可能性がある」とし、田口社長は複数業種の企業と商談を進めていることを明かすとともに、「PCやスマホなどの端末にバンドル」されている将来の姿を予想している。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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