次世代のシステムインテグレーション(SI)を摸索する中堅SIerが増えている。その1社のTDCソフトは2019年4月にスタートする中期経営計画に「Shift to the Smart SI」を掲げる。社長の谷上俊二氏は「今のままでは通用しなくなることははっきりしている」と危機感を募らさせて、「従来型SIから進化を遂げるSIとはどんなものか、しっかり取り組んでいく」と、スマートSIを打ち出す理由を説明する。
デジタル時代へのスキルチェンジを図るTDCソフト
谷上氏が社長に就任したのは、約10年前の2009年6月になる。リーマンショック後の厳しい経営環境の中だったが、組織を大きくする再編や新規事業などで乗り切った。この10年間に、社員数は約300人増の1500人に、売り上げは約90億円増の250億円(2019年3期)を見込む規模に達する。経常利益も同じく13億円弱増の20億円と、順調に推移してきた。
だが、売り上げを50%増やしたものの、谷上氏が今、最も危惧するのはデジタルに対応するエンジニアの育成だ。これまで1人の優秀なエンジニアが数人から数十人を引っ張ってきたので、多くのエンジニアがぶら下がって仕事をしてこれた。そんなエンジニアが全体の約8割もいたが、それを5割に下げる必要があるという。「盛んにデジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタルビジネスの世界が来る」(谷上氏)と言われているからだ。ビジネスモデルががらりと変わるDX化は、既存企業の存在を脅かし、SIにも変革を迫るだろう。
谷上氏は「そんなデジタルビジネスに対応するSIerになる」ことを考えている。だが、目指す姿が明確になっているわけではない。主力の基幹系システムの構築から保守までの従来型ビジネスがゼロになるわけではないからだ。需要は縮小するが、「大きく変わるのが3年後なのか、5年後なのか、走りながら考える」という。
つまり、従来型ビジネスを展開しながら、デジタルに対応できるエンジニアのスキル転換をどう進めていくかが大きな課題になる。その一方で、エンジニアの流動性が高まっている。TDCソフトは毎年、新卒約100人、中途数十人を採用し、年30人程度の純増になり、ようやく1500人体制になった。採用を減らせば、人員は減る可能性もある。
システムの作り方が変わり、エンジニアの意識が変わる
もちろん、デジタルには取り組んでいる。2017年に技術開発推進本部を設置し、アジャイル開発やブロックチェーン、人工知能(AI)利用の共同研究などを始めている。現段階では、パイロット的なものが多く、「アジャイル開発を含めても売り上げは5億円に満たない」(谷上氏)
それでも、これまでのような「とにかく安く作れ」といった要望は小さくなる。ウォーターフォール型ではなく、細かな機能を追加していくアジャイルなどの開発スタイルに変わる。その手法を今の開発現場に取り入れており、その数は50人弱になる。「ゴールがあって、仕様があってから開発してきたが、今はゴールも仕様もないまま、開発が始まってしまう」
つまり、システムに対する意識が違うということ。「こうではない」「ああでもない」などと一体になって作り上げていく。そんな意識に変われないエンジニアはついてこれない。
だが、「一足飛びにデジタルの世界に全員が行けるわけではない」(谷上氏)。例えば、金融系を中心にレガシーな基幹系システムを担うCOBOLエンジニアは全エンジニア1200人のうち約500人になる。その汎用機に携わるエンジニアに、Javaなどオープン系のスキルをつけさせている。「COBOLからオープン系への転換は3分の1の200人弱がスイッチした」(同氏)
アジャイル開発やマイクロサービスなどを拡充していくため、2019年2月に技術開発推進本部を発展させた約50人を配置するデジタルテクノロジー本部を設置した。エンジニアのスキルチェンジに必要な投資も積極的に行うという。アジャイル開発の案件は規模が小さく、売り上げも小さいが、利益率向上へのチャンスでもある。ただし、数年後にそれぞれを担うエンジニアの人員構成を決めているわけではない。変革のスピードが読めないこともある。
いずれにしろ、システムの作り方が変わる。経済産業省が2018年末、ユーザー企業にレガシーシステムの刷新を迫る「2025年の崖」を説いた。このままでは、日本企業が世界のデジタル化の波に乗り遅れてしまうと警鐘を鳴らしたのだが、谷上氏は「デジタルネイティブなエンジニアが崖や壁を乗り越えていくだろう」と、世代交代によって実現できると予想する。SIerに求められるのも、会社の規模ではなくなり、どんなエンジニアがそろっているか、などになる。ユーザーの景色も一変する。2019年6月、10歳若い55歳の小林裕嘉氏が社長に就き、スマートSIへの旅路に出る。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。