本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、デルの上原宏 執行役員と、日本OpenStackユーザー会の水野伸太郎 会長の発言を紹介する。
「サーバーは今後“アクセラレーテッドコンピューティング”に注力していく」
(デル 上原宏 執行役員)
デルの上原宏 執行役員
デルとEMCジャパンが先頃、機械学習専用のサーバー新製品「Dell EMC DSS 8440」を発表した。デルで執行役員インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括 製品本部長を務める上原氏の冒頭の発言は、今回の新製品を皮切りに「アクセラレーテッドコンピューティング」に注力していくことを宣言したものである。
DSS 8440は、画像認識、自然言語処理、気候モデルなどの機械学習で幅広く利用されているGPU(Graphics Processing Unit)「NVIDIA Tesla V100」を最大10基稼働でき、近年ますます需要の高まる機械学習の処理能力を業界標準技術規格のアクセラレーターで加速し、学習時間を短縮するとしている。さらに詳しい内容については関連記事をご覧いただくとして、ここではアクセラレーテッドコンピューティングという言葉に注目したい。
この言葉はIDCが提唱している。同社では、エンタープライズインフラ市場において、特定の計算処理を一般的なCPUからオフロードし高速に実行する処理を、アクセラレーテッドコンピューティングと定義している。具体的には、GPUやFPGA(Field Programmable Gate Array)をはじめとした、標準的なx86以外のプロセッサーをCPUやアクセラレーターとして搭載したサーバーと、そのサーバーに接続される外付型ストレージを主な対象としている。
特定のワークロードの計算需要が、CPUの計算性能向上のペースに比べて急速に高まり、処理性能のギャップが顕在化したため、この解消のために採用が増えている。人工知能(AI)やIoT向けでは、一般的なCPUだけを計算に用いるサーバーと比べ、高密度な配置と高い電力性能を実現する可能性が高いことから、国内エンタープライズインフラ市場における重要な成長分野になると見ている。
そうした予測から、IDC Japanでは、国内エンタープライズインフラ市場に占めるアクセラレーテッドコンピューティングの割合について、2017年の7.8%から2022年の16.8%へ大幅に拡大し、同市場の約6分の1を占めると予測している。
上原氏も発表会見で、こうしたIDCが発表した数字を紹介し、「サーバー分野では今後、アクセラレーテッドコンピューティングに向けた製品が広がっていくのは間違いない。当社は先手を打って市場をどんどん切り開いていきたい」と力を込めた。
ただ、アクセラレーテッドコンピューティングへの注力を国内で大きく打ち出しているのは、今のところデルとEMCジャパン陣営だけのようだ。今後、他社が同じ表現を使うようになれば、市場はさらに拡大しそうだ。
アクセラレーテッドコンピューティングを加速する半導体の進化。DSS 8440では将来、GPUとは別にAI専用プロセッサのIPUにも対応予定(出典:デルとEMCジャパンの資料)