山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

残業に積極的な中国ネット業界の新卒社員--長時間勤務「996問題」の実態とは

山谷剛史 2019年07月02日 07時00分

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 2019年前半に中国IT業界関係者の中で最も話題になったのは、中国のブラック過ぎる残業問題だろう。IT業界に従事する人の中では朝9時から夜9時まで週6日働くブラックな環境、通称「996問題」が発生していることが明らかになり、業界内で特に話題になった。では実際どれほど残業をしているのだろうか。幾つか調査結果が出たので紹介したい。

 ビジネス特化型SNS「Linkedln」は、数千人の若い社員を対象に調査を行った。調査対象となったのは、Linkedlnを利用するような人々ということだろう。「待遇がよい」が44%、「企業文化や雰囲気がよい」が37%、「仕事内容の価値」が19%となったと回答している。

 残業については、調査対象の87%が常に残業をしているとし、13%が残業を拒否していると結果となった。また常に残業をしていると回答した人の3分の1で残業代が支払われていない状況となっている。仕事が終わった後も勉強をするかという質問には、82%がすると回答、18%がしないと回答している。

 結果を補足するように同調査レポートでは、「同僚の誰もが残業している中で、自分だけが残業をしていないなら、社会競争の中でふるいにかけられそうで怖い」という声を紹介している。

 この結果を見ると、Linkedlnの利用者でも向上心がある人々が回答しているため、とりわけ勤勉に思える調査結果が出たのではないかとも考えられるが、他の調査結果でも似たような結果が出ている。

 就職支援サイト「BOSS直聘」は、主に情報通信業での勤務者を対象とした残業についてのレポート「2019職場人加班現状調査報告」をまとめている。

 残業の頻度は、「毎日」が24.7%、「週2~3日」が45.5%、「週1日」が19.2%、「残業しない」が10.6%となった。世代的には若い世代の方が残業に積極的だ。「95后(ジョーウーホウ)」と呼ばれる1995~1999年生まれの世代は他の世代と比べて「毎日残業」の割合が最も高く、「90后(ジョーリンホウ)」と呼ばれる1990~1994年生まれの世代は「残業しない」という割合が最も低いという傾向があった。

 休みは「週休2日」が36.2%。「月の半分は週休1日、半分は週休2日」が33.6%、「週休1日」が21.9%、「週休半日」が2.9%、「休みはない」は5.4%となった。週休2日の人は3分の1しかいないわけだ。

 残業代が出ればいいが、中国企業で残業代を出す会社は少数派のようだ。19.4%が「残業制度はよい」、26%が「会社に残業制度がない」、36.7%が「残業したら上司がごちそうしてくれる」、17.9%が「正式な残業制度が欲しい」と回答している。中国企業の躍進の背景には優秀な人材の報酬の高さが伝わる一方で、時給換算では「20元(320円)以下」は29.0%、「20~30元(約320~480円)」が34.7%、「30~60元(480~960円)」が23.2%、「60元(960円)以上」はわずか13.0%となっている。

 中国でもブラックな環境のようだが、仕事量が多いだけが理由ではない。残業の理由としては「仕事が終わっていない」が41.6%となったが、その他にも「同僚が働いているので先に帰れない」が25.4%、「上司がまだいるので帰れない」が17.3%、「仕事が好きなので好き好んで残業している」が10.5%、「会社にいるのが好きなので会社に残る」が5.2%となった。周りの空気を読んで会社に居続けるのは中国も変わらないらしい。

 またマッチングサービス「58同城」が発表した、大卒の新入社員を対象とした「2019年高校卒業生就業報告」(中国語で「高校」は「大学」の意味)という調査レポートによると、情報通信業界が最も人気の職業だった。就職で人気の都市は人気順に「上海」「広州」「北京」「深セン」「青島」「武漢」「杭州」「成都」の順となった。

 調査対象となった大学生が望む初任給の平均額は9154元(約15万円)だったが、実際のところは6423元(約10万円)であり、高望みの傾向があるという。情報通信業界については、希望する平均額が10209元(約16万円)に対して、実際の額は6550元(10万円強)だった。ちなみに初任給の高い業界では、金融では9257元(約14万6000円)、電気電子が8000元(約12万6000円)、生産管理・研究開発が7947元(約12万5000円)となった。

 学生が仕事を探す際に重視していること(複数回答可能)は、「初任給の待遇の良さ」が最も多く58.9%、「続いて自身が成長できそう」が45.2%、「個人的に興味がある仕事かどうか」(27.4%)となった。今どきの95后の学生は90后の学生(当時)と比べて賃金・待遇に注目しているとのことだ。

 残業代が満足に支払われていないながらも、残業をもいとわない社員が多数働くことで今の中国IT業界は成り立っているようだ。996問題が話題になった後も企業を厳しく取り締まるということはなく、依然として業界全体が残業を当然として動いている。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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