日本ユニシスが2018年3月に提供を開始し、仮想現実(VR)を活用したバーチャル住宅展示場「MY HOME MARKET」。ここに出展する住宅メーカーが2020年早々にも、北海道に本社を構える土屋ホームなど10社近くになるという。クラウドサービスとVR、スマートフォンで、住宅の内覧とカスタマイズの見積もりを可能にするもの。
日本ユニシスが11月末に開催した住宅営業セミナーで、MY HOME MARKETを担当する多勢正英氏は「モノの買い方が変化してきた」と語り、デジタルを自然に受け入れるミレニアム世代の新しい住宅購入を支援するものになると期待する。日本ユニシスにとっては、システムインテグレーション(SI)に変わる新しいビジネスモデルにもなる。

日本ユニシスが提供するMY HOME MARKET
SNSや体験などを重視するミレミニア世代の購買動向
住宅販売市場動向に詳しいフィンチジャパン社長の高橋広嗣氏は住宅営業セミナーで、「2018年を境に新築販売が減少し、どうやって住宅を販売するかが大きな課題」とし、購入の中心になる30代から40代前半を狙った新しい販売施策の重要性を説く。その答えの1つがバーチャル住宅展示場の導入になるという。住宅メーカー各社がVR化した規格住宅をバーチャル住宅展示場に出展し、顧客がスマートフォンで閲覧する。内見や見積もりもする。
高橋氏がミレニアム世代に適する販売方法の理由に挙げるのが、PCやスマートフォンが子どものときから身近にあり、SNSで情報を発信・収集したり、口コミを重要視したりといった情報感度が違うこと。FacebookやInstagram、Twitterなどの情報に反応もする。購買の基準も「モノではなく、コト(体験)」に重きを置く。シェアリングエコノミーやインターネット購入などを頻繁に活用するなど価値観も異なる。
もう1つの理由は、共働き世帯が多いこと。地方都市の場合、7割以上と言われている。そんなミレニアム世代が住宅を購入するに当たり、夫婦2人で何回も住宅展示場を訪れる時間はないだろう。とはいっても、何回も内覧するなど十分に吟味したいはずだ。そこに、顧客がいつでもどこでも住宅を内覧し、追加したオープション価格がすぐに分かるバーチャル住宅展示場がマッチするという。
日本ユニシスが20代から50代の男女約2000人にVR活用に関する調査をしたところ、5割以上が「VRを購入時に使いたい」と前向きな回答だったという。「注文住宅を自分の好みで選べる」「間取り図で見るのと、3次元で見るのとでは出来上がりイメージの分かりやすさが全然違う」などポジティブな意見が多数あったという。ただし、VR活用の魅力は「イメージが湧く」ことより、「シミュレーション」「価格が先に分かる」だった。予算に見合うオプションを選択・シミュレーションし、価格を提示するといった分かりやすさにもある。
MY HOME MARKETをいち早く導入した土屋ホーム常務取締役の千田侑也氏は「日本ユニシスからVRを顧客に見せれば、住宅が売れると提案されて、いけると思った」と語る。実際にVRでカスタマイズせずに売れたのは3棟だったという。だが、顧客との現場でのコミュニケーションや、何度でも間取りや内装などを確認し合えるなどの利点があり、こうした間接的なものを含めれば、30棟以上の成約につながったという。
加えて、営業担当者に自信を与えたという。「スキル不足と思っていたのに、顧客から『素晴らしい営業ですね』と言われた」(千田氏)と、VRが若手の営業担当者に強力な武器になったと明かす。顧客の目の前で、タブレットを駆使した説得力のある説明をしたからだという。結果、「最先端技術を活用する会社」というブランドイメージも生まれる。打ち合わせ回数も、契約から着工まで平均1カ月半かかかっていたが、MY HOME MARKETの導入後は3週間程度(2回)で終わるようになった。裏側では、顧客は自宅などからスマートフォンで何回もチェックしている。
日本ユニシスの多勢氏は「パーソナライズされた家作りを支援する」とし、住宅メーカーに新しい販売方法としてMY HOME MARKETの採用を働きかけている。現在、6社が12棟を出展中だ。1棟当たりのサービス利用料が月額30万円になる新たな収益源になるビジネスだ(初期費用は1500万円)。今後、同社が取り組むエネルギーやヘルスケア、医療介護などのプラットフォームとの連携も考えているという。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。