MicrosoftがTikTokの買収に向けて交渉していることは、表面上はふに落ちない話かもしれない。実際のところ、エンタープライズ分野で名をはせているMicrosoft、TikTokについてツイートしているDonald Trump米大統領、それに同調する米議会、そして9月に買収を成立させるという期限など、合点のいかないことばかりだ。
筆者も、この買収に関するアナリストらの憶測をいくつか読んだ。Microsoftの最高経営責任者(CEO)Satya Nadella氏は、買収金額次第で(100億ドルなら見逃せない取引だが、500億ドルなら普通ではないかもしれない)、その意図を説明する必要があるだろう。
以上を踏まえた上で、MicrosoftのTikTok買収計画がなぜ生じているのか、筆者なりの知見に基づいて推測してみたことを挙げる。
1. 米国防総省(DoD)の「JEDI」(Joint Enterprise Defense Infrastructure)クラウド契約について、まもなくあらためて発表があるかもしれない。MicrosoftはDoDのクラウドを刷新する100億ドル(約1兆1000億円)規模の契約を、Amazon Web Services(AWS)を抑えて勝ち取った。Trump大統領はAmazon、そしてWashington Postを所有する同社のCEOのJeff Bezos氏と、良好な関係にあるとは言い難い。MicrosoftとAWSは2019〜2020年に、JEDI契約を巡って法廷で争っており、米国防総省の監察総監室が調達プロセスを検証した報告を経て、8月に再び契約の行方が発表される可能性がある。
こうしたタイミングの重なりに気づく読者がいれば、筆者同様にシニカルな人間といえるだろう。これら2つはまったく無関係かもしれないが、TikTokの買収と同じような時に、JEDI契約について言及されることも想像できない話ではない。これはあくまで筆者のシニカルな意見だと言っておきたいが、このタイミングは考えされられるものがある。
2. MicrosoftはTikTok買収の話題で衆目を集め、ソフトバンクからArmを買収しない理由を尋ねられるのを避けている。Microsoftに資金の用意があるのは明らかかもしれない。ソフトバンクが傘下のArm売却を検討しており、NVIDIAが関心を示していると報道されている。ほかの企業(Apple、Qualcomm、AMD、Intel)も関心があるかもしれないが、規制上のさまざまなハードルがあるはずだ。Armはモバイル分野に関連していない企業が買収するのが適切だとの見方もあり、そういう意味でMicrosoftはよい候補となりうる。またMicrosoftはライセンシングについて知識があるため、Armとの相性はよいかもしれない。TikTokではなく、Armの買収に名乗りを上げるのはどうだろう?
3. Microsoftはコンシューマー向けサービスをやめることができない。Microsoftはゲーム配信サービス「Mixer」を終了したばかりだ。そして、フィットネス端末「Band」のサービスを終了しているほか、「Windows Phone」は失敗に終わっている。「Alexa」「Googleアシスタント」「Siri」を追撃するとみられた「Cortana」は、ビジネス向けに路線を変更している。同社は消費者向けの「Xbox」で成功しており、「Minecraft」でも健闘しているが、TikTokのハードルははるかに高そうだ。TikTokを買収するだけで、放っておくわけにはいかない。データ、プライバシー、統合などに関するさまざまな課題に直面することになるだろう。
4. MicrosoftはTikTokを破格の安値で買収できるかもしれない。TikTokは米国政府に厳しい目を向けられているため、どのような額で売却されるかは予測できない。同社はTikTokを非常に安く買収できる可能性がある。しかし、MicrosoftはTikTokを買収後、Facebookに容易に転売するといったことはできないはずだ。Facebookなどの大手テクノロジー企業は、独占禁止法に関する公聴会でトップが厳しく追及された直後だ。
MicrosoftによるTikTokの買収は非常に課題が多く、同社が買収交渉のテーブルから離れ、政府がTikTokをどう扱うか模索するのを見守る道もあるのではないかと筆者は思う。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。