小米科技(シャオミ)といえば、日本ではスマートフォンメーカーのイメージが強いだろう。しかし、中国ではIoT家電のリーダー的な存在としても知られている。スマートウォッチやスマートスピーカー、ロボット掃除機、スマート炊飯器など、さまざまなメーカーが同社のIoT基盤に対応した製品を提供している。これらの製品がサーバーの不具合で突然動かなくなってしまったのである。
異変は4月30日早朝、中国各地でスマートホームディスプレイがインターネットから遮断され、シャオミの「米家(ミージャ)」アプリからIoT機器を操作できなくなった。同日午後にも同じ障害が発生したという声があった。微博(ウェイボー)などのSNSでは「米家崩了(米家が壊れた)」という言葉がホットワードになった。
中には、デバイスがつながらない様子をアップするIoT家電のヘビーユーザーや、「エアコンやタイマーがつかなかった」「(IoT家電の)音声制御ができなかった」という意見もあった。また、シャオミが提供するアプリの一部も起動後に応答不能となって操作できなかった。
こうした事象を受けて、シャオミは緊急メンテナンスを実施し、サービスは数時間で復旧した。シャオミの担当者は「クラウドネットワークの障害により、米家アプリや音声制御、その他の関連サービスが4月30日午前5時30分以降、異常になっていました。緊急メンテナンス後にサービスは復旧しました。デバイスがオフラインなどの場合は、再設定する必要はありません。ご不便をおかけして申し訳ありません」とコメントしている。
同社のIoT基盤には、PC、スマートフォン、タブレットを除き、4億3400万台のIoT機器が接続されている。米家アプリの月間アクティブユーザー数は6390万人、5台以上の機器を接続しているユーザー数は880万人だった。
クラウドの障害で同社サービスが突然使えなくなるのは今回が初めてではない。2019年11月にも、同社の人工知能(AI)アシスタント「小愛」(シャオアイ)が動作しなくなったことがある。だが、今回はIoT機器での障害である。早朝だったから影響が少なかったものの、日中であれば、調理時にスマート家電が動作しない、エアコンや空気清浄機が動かない、ネットワークカメラで子どもやペットの様子が見られないなどといった影響が想像できる。シャオミは電気自動車(EV)の開発を発表しているが、サーバーエラーなどで自動車が正常に動作しなくなる恐れもある。
新型コロナウイルス感染症が中国・武漢市を中心に拡大した際はこんなこともあった。多数の人がステイホームで時間を持て余し、「愛の不時着」など当時流行の動画を視聴したことから、シャオミのスマートテレビやセットトップボックスから動画配信サービス「iQiYi」(愛奇藝:アイチーイー)が利用できなくなった。これは、サービスへのアクセス集中が原因であり、シャオミのスマートテレビからは別の動画サービスを利用することができた。
シャオミは、iQiYiのサーバーダウンをマーケティングに活用し、「中国でナンバーワンテレビメーカー」だとアピールした。確かに、中国の電子商取引(EC)サイトやオンライン予約サイトでは、サーバーダウンになることが人気サービスの裏返しとして紹介されることがある。しかしサーバーダウンを自慢する風潮があるとしたらリスキーだ。
IoT機器の障害はサーバーダウンだけではない。2019年に湖北省でIoTシステムへのハッキング事件が起きている。この時は、洗濯機やドライヤー、充電スタンドなど、10万を超えるIoT機器がオフライン化され、利用不能になってしまった。警察当局によると、犯人の2人は被害に遭ったIoT企業の元従業員だったという。退職時にソースコードを盗み出しておき、競合会社を立ち上げた際に悪用した。
もちろん、IoT機器を使っていてもほとんどの場合は問題ない。しかし、まれに障害や不具合が発生することはある。さまざまなIoT機器が家庭や産業向けに普及していき、社会に浸透していくことだろう。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。