山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国で横行する盗撮ビジネスの実態

山谷剛史

2022-08-10 07:00

 中国政府が盗撮対策に乗り出している。盗撮機器を販売・改造する店舗や、家庭内・公共施設に設置された防犯カメラに不正アクセスするためのマニュアルやソフトウェアを販売する業者の摘発に乗り出した。状況は少しづつ改善しているものの、盗撮対策はまだ道半ばだ。

 北京、上海、広州など地下鉄のある都市では、女性の盗撮被害が増えている。背景には、盗撮画像を共有するプラットフォームの存在があると中国メディアの法治日報は報じている。

 中国の生活には「微信(WeChat)」が不可欠だ。さまざまなサービスで活用されており、利用のためにグループに招待されることがよくある。同メディアの記者は、ある盗撮画像サービスの招待を受け、その時の経験を記事に記している。

 同記者は、「盗撮グループに加入すると画像や動画が無料で見られる」というメッセージを受け取り、実態を確認するために加入してみた。そうすると、幾つかの画像や動画とともに「もっと見たい場合は有料版を」という誘導メッセージが送られてきた。そこで課金すると、地下鉄や展示会、ショッピングモール、ホテルなどで盗撮されたと思われる大量の画像や動画がアップロードされ、1日に何重ものファイルが頻繁に追加されていたそうだ。課金版グループには300人ほどがメンバーになっていたという。

 さらには、「トイレ」「ホテル」「風呂」などのジャンル別で追加コンテンツを特別販売するという勧誘もあったとのこと。ちなみに記事では、潜入取材を終えた記者は当局に通報してグループを閉鎖させたと記している。

 このようにして次々に課金を迫るわけだが、大本となるコンテンツは盗撮業者からまとめて仕入れたものに加え、隠しカメラを通じてリアルタイムに撮影されたものもある。

 中国政府が対策を強化したとはいえ、それでも盗撮は金になるのだろう。2019年以降、盗撮に使われる超小型カメラの販売は激減したものの、ECサイトの出品者は「マイクロカメラ」「レンズユニット偽装」といった直接的な表現を避け、遠回しな説明にした上でテキストを画像化するなどの対策を講じて、盗撮用グッズの販売を続けている。

 超小型カメラの一つはボタンのような形状をしており、直径3.8cmで厚さ1cm。ネットワークがつながっていればリアルタイムに監視でき、ネットワークがなくても録画はできるようになっている。電源タップや魔法瓶、車のリモコンキー、加湿器など、さまざまな場所に潜ませることができるという。また、店によってはスマートフォンに超小型カメラを仕込む改造サービスを提供するところもあり、スマートフォンでの撮影がばれないように偽装できるとしている。

 特にホテルが隠しカメラの標的にされているという。電源タップや電化製品、スマートフォンに仕込まれたカメラは電源を気にする必要がない。盗撮映像を入手する手段する一つとして、業者が隠しカメラをホテルの客室などに設置し、そのアクセス権を販売する。この手法で日本円にして数百万円を稼いだ者もいる。中国では、ホテルに盗撮カメラが仕掛けられていたことがしばしばニュースになることから、隠しカメラを調査・発見する専門の業者も台頭した。

 日本にとっても他人事ではない。かつて、北京第三中級人民法院の裁判では、中国国内だけでなく、日本を含めた世界で18万台もの家庭用ネットワークカメラが、被告人の開発したサービスで閲覧可能だったことが明らかになった。被告人はクラッカーを通じて特定のネットワークカメラのユーザーとパスワードの情報を入手し、盗撮映像を見られるアプリを自作したのである。

 ホームネットワークカメラの映像が勝手に他人に見られていたというニュースは中国で何度か報じられているが、いずれもこの手のサービス経由だったと報じられている。

 それでは、安全なネットワークカメラを選ぶにはどうすればいいのだろうか。データ通信の暗号化機能がない安価な製品はターゲットになりやすい。中国の各メディアでは、この点を気を付けるだけでも、かなりリスクが軽減されるという専門家のコメントを引用している。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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