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牛の町からドローンの町へ--休眠空港を試験場にして地域活性を進める米国小都市 - (page 5)

Stephanie Condon (ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2023-02-09 07:30

 一方で、Rangeに対しては懐疑的な見方もある。Jason Hill氏によると、今や故人となっている隣人が、自分の土地の近くを飛行していた政府運営のドローンを撃ち落とすと脅してきたことがあったという。その人は「気難し屋だっただけ」と同氏は振り返る。

 「何か新しいことがあると、反対論者は突然ぞろぞろ現れる」と同氏は付け加える。「おそらく(ペンドルトンの)住民の50%が受け入れているが、残りの半数は疑っているか、上手くいくはずがないと言っているのではないか」

 Hill氏は悪く言う人たちに苛立ちを募らせているという。特に町の中小企業がパンデミックにより危機に陥ったのを見た後、その苛立ちは強まった。ドローンビジネスは、「この町をもっと豊かにする可能性を秘めている。町への流入者がいることは常に良いこと。買い物に出かけ、町を常に動かしてくれる」ということだ。

 市の経済担当ディレクターとしてのChrisman氏の課題には、その流入者が住み続けるよう推進する活動が含まれる。市は、空港に「オタク用の巣」を構築する予定の地元の開発業者から民間投資を受け入れてきた。これは、技術者向けの職場と高級住居を兼ねたスペースである。

 Sprightの飛行試験マネージャーであるJustin Connerly氏は、2022年3月からペンドルトンに居住している。

 「このようなロデオと農業に熱心なペンドルトンのような町に来てシリコンバレー精神をもたらすこと、そして、それが町のアイデンティティにどのような影響を持つかについて、当初は不安を感じていた」と同氏は語る。「しかし、この町周辺で私が経験した限り、皆がドローン関連の仕事を受け入れ、共生しようとしている。私はこのところ、町の人たちに会うように努めている。空港のドローン会社に所属していることを伝えると、いつもこう言ってもらえる。『あれ本当に格好いい。未来がとても楽しみだ』と」

 それでも、多くの住民が、ペンドルトンが「次のベンド」になるかもしれないと恐れていることはChrisman氏も認めている。オレゴン州中央部にあるベンドはデシューツ川沿いにある落ち着いた地域だ。ポートランドから車で3時間半のところにあるこの木材産業中心の小さな町は、急速に大人気の旅行先へと大きく変貌を遂げた。ベンドの人口は2000年から実質2倍に増えたが、この町の住宅価格も急騰し、ホームレスなどの問題が常態化した。

 そして、地方政府議会を傍聴すれば誰もがわかるように、長く住む市民が激怒するのに時間はかからない。Chrisman氏によると、最近のペンドルトン市議会で、ある住民が町のお気に入りのレストランに行った際に、すぐ傍に駐車スペースが見つけられなかったため、もう二度とそこには行かないと不満を述べたという。

 ペンドルトンコンベンションセンターのマネージャーであるPat Beard氏は、ペンドルトンをよりよくすることとは、必ずしもペンドルトンを大きくすることではないという。言い換えれば、ドローンが町の形を劇的に変える心配はしていない。

 「この文化が変わることはないはずだ」と同氏は語る。「アスファルトをめくれば、オレゴン街道の跡が出てくるだろう。われわれにはオレゴン部族との共通文化がある。そういったものは、これからも変わることはない」

文化的な結び付きはペンドルトンの奥深くに根差している。提供:Stephanie Condon / ZDNET
文化的な結び付きはペンドルトンの奥深くに根差している。
提供:Stephanie Condon / ZDNET

 Beard氏は代々カウボーイの家系に生まれており、家族の歴史は米国西部生活と切り離して語ることはできない。同氏の母方の祖父は15歳のときに家を出た後、西部に広がる大牧場で働き始め、ロデオで腕を競った。父方の祖父は馬を集めて、ワシントン州のヤキマ郡からアーカンソー州のフォートスミスまで一度に1000頭も走らせた。

 Beard氏は10代の頃、父親と共にロデオのプロ競技のプロデュースを始めた。ビジネスとして、ペンドルトンラウンドアップにロデオ競技用の荒馬や暴れ牛を提供した。「それがいつも私のお気に入りだった」とBeard氏は語る。「人生の頂点だったよ。私はナショナルファイナルズロデオに関わっているが、もし1日だけこのアリーナで過去に戻れるなら、あの頃を選ぶ。それが今でも私のお気に入りだ」

 多くのベテランのカウボーイと同じように、Beard氏も、心を込めて動物と接することの価値を理解している。同氏は、ペンドルトンで開発されているドローンを、この町の丘陵地帯の草を食べる牛を追い立てるために使用できるという提案に対して怒りを覚えている。

 「私はこのとおり、頭の固い昔ながらの男だ。だから、そういうものが互いに交わることはないと思っている」と同氏は語る。

 「四輪車やサイドバイサイドといった車で牛を追い立てている人も多くいる。彼らをかかとからつるし上げて、こん棒で尻を打つべきだと思う。そういう風に動物に接するのは間違っている。正しくない。ラウンドアップと同じように、私は過去の遺産、歴史、伝統を大切にしている」

 言うまでもなく、農業はドローン市場の相当の割合を占めている。Beard氏によると、ペンドルトンのとある有力地主はすでにドローンを使って牛を追い立てているという。「同氏の生活は楽になっている。それについては称賛する」と、お世辞を言った。

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