内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

DX浸透の壁を乗り越えるには--全社的な活動とするための3つのポイント

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2023-08-16 07:00

 デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している企業で頻繁に直面するのが「浸透の壁」です。デジタル化や変革に挑んでいるものの、それが局所的な取り組みにとどまっている企業が少なくありません。従業員の変革意識を高め、DXを全社的な取り組みへと広げていくことが求められます。

「なぜ」と「どこへ」を徹底的に追求する

 前回までは、企業がDXを浸透・定着させるための要件について述べてきました。今回は、DXを社内に浸透させ、全社的な取り組みへの広げていくために重要なポイントについて考えていきます。

 まず、企業が、全社一丸となってDXジャーニーを歩み、活動を全社に浸透させていくための1つ目のポイントは、「なぜ、自社にとってDXやデジタル化が必要なのか(Why)」、その背景や目的を徹底的に議論することです。

 その際には、自社の現状の課題ではなく、10年、20年後の将来の外部環境の変化を見据えて、未来視点の潜在的な課題を抽出することがポイントとなります。「なぜ」を明確にしないままDXを推進したために、途中で行き詰まり、再び「なぜ」の議論に戻ってしまう状況が既に多くの企業で起こっています。

 また、「なぜ」とともに「DXによってどのような姿を目指すのか(Where)」について明確な方向性を示すことも重要です。具体的には、未来の企業像、目指す組織風土、将来の事業構造などを明らかにすることです。これらのWhyとWhereを表現したものが「DXビジョン」となるでしょう(図1)。

 策定したDXビジョンは、いうまでもなく壁に掲げて飾っておくものではありません。1つ目のボタンを掛け違えることのないよう、ビジョンを全社員に周知させ、同じ方向に向かって進んでいけるようにすることが特に重要です。ビジョンは、長いDXジャーニーを進むための原点であり、道標となるはずです。施策の実行可否判断に迷った時、抵抗勢力に押し戻されそうになった時、目的を見失いそうになった時などは、必ず原点であるビジョンに立ち返って考えることで道が開けるでしょう。

 しかし、一度ビジョンを明確に示して全社に周知しても、それで油断してはなりません。課題認識や動機づけは時間の経過とともに薄れていくため、繰り返し啓発し続けることが重要です。

図1.「なぜ」と「どこへ」を明確に示すDXビジョン 図1.「なぜ」と「どこへ」を明確に示すDXビジョン
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浸透の壁を一点突破する

 2つ目のポイントは「一点突破」です。変革の推進において、「一人も取り残さない」というスローガンを掲げることが多く見られます。結果として「一人も取り残さない」状況が出来上がることは理想ではありますが、これにこだわり過ぎることはDXでは悪手と言わざるを得ません。

 組織の特性としてよく言われる「2・6・2の法則」のように、一定規模の組織には、変化に対して積極的な2割、中道的な6割、消極的な2割の人がそれぞれ存在します。「一人も取り残さない」というのは、最後の消極的な2割の人にも目を向け、手を差し伸べることであり、決して悪いことではありません。しかし、消極的な2割の人々のことを考慮するあまり、変革の手を緩めたり、先送りしたりするというのでは本末転倒と言わざるを得ません。

 従って、DXにおいては、積極的な2割の人からの賛同と協力を得て小さな成功を勝ち取ることで一点突破し、その成果を数値的根拠などで示して社内に啓発することが早道と言えます。それに刺激を受けた中道的な6割の人が追従し、大勢を占めることで、最終的には保守的な2割の人も追随せざるを得なくするというアプローチが望ましいのではないでしょうか(図2)。

 駅の自動改札やキャッシュレス決済も、当初は不慣れな人や抵抗を示す人がいたとしても、次第にその利便性が多くの人に伝わることで確実に浸透していっています。まずは、一点突破で小さな成功事例をつかみ取ることを優先すべきです。

図2.「2・6・2」の法則を活用して一点突破する 図2.「2・6・2」の法則を活用して一点突破する
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