みずほ銀行がSAPのERPである「SAP R/3」を導入したのは2002年ごろのことだ。ちょうど旧富士銀行、旧第一勧業銀行、旧日本興業銀行の3行を分割・合併し、みずほ銀行が誕生した時期である。
バックオフィス業務を集約してTCO削減
みずほ銀行では、SAP R/3に旧3行の固定資産データを入れ、みずほコーポレート銀行と共同で管理してきた。SAP R/3導入から6年が経過し、サポート切れが迫っていた2006年。従来から用いていたLotus Notesによる案件管理や、建物等の施設情報を管理するファシリティ・マネジメントを含めた形で、SAP ERP 6.0へのアップグレードを検討した。
アップグレードにはかなりの費用がかかるものだし、固定資産管理はバックオフィス業務であるため直接の収益には結び付かない。みずほ銀行 管理部で調査役を務める北村省吾氏は「もちろん我々もコストの壁に突き当たった」と打ち明ける。
管理部で行う固定資産管理業務だけを対象としたアップグレードでは、投資を回収する見込みが立たない。そこで北村氏は、本部の財務企画部が所管する予算管理の仕組みと統合することを思いつく。
北村氏は「予算管理を勘定系から切り離すことでTCOを削減でき、しかもバックオフィス業務を集約すれば内部統制にも対応できる」と判断。さらには、みずほ信託銀行やみずほ証券など、数多くのグループ会社で「システムを横展開できれば、各社のTCOも下げられる」と考えたのである。
検討の結果、SAP ERP 6.0へのアップグレードが決定した。2007年初頭からアップグレードに着手。同年11月、わずか10カ月間の工期で固定資産・予算管理システムをリリースした。管理部をはじめ、財務企画部、主計部、IT部門など巻き込んだ、合同プロジェクトであった。
今回、システム構築を担当したみずほ情報総研の木村政彦氏は、このプロジェクトが順調に完遂できた理由として「北村氏を含むユーザーの方々の、ERPへの理解が高いことが大きかった」と話す。一般に、システムの変更に合わせて業務を変えることに抵抗感のあるユーザーは少なくないが、北村氏は業務をシステムに合わせることと、アドオン開発は極力しない方針を明確に打ち出してプロジェクトを進めた。
「アドオンがゼロというわけではないが、どの企業でも行う業務なのだから、そこに独自性を出しても意味がない」と北村氏は考えた。しかし、銀行には旧来からの文化があり、実際に業務を変えることはそれほどたやすくない。「銀行には憲法的な事務手続がある。そこにまず手をつけ、業務を変えると決めた。それが大きかった」と北村氏は振り返る。
完成した新しいシステムは、とても簡素だ。まず画面上のメニューを選択すると、業務画面が立ち上がる。交通費の支払いであれば、いくつかのコードと口座番号を選択し、金額を入力すれば伝票が流れていく。しかし、ユーザーは従来のシステムと比較して使い勝手が変わるだけで「使いづらい」「難しい」と感じてしまう。リリース当初、ヘルプデスクの電話は鳴りっぱなしだったという。しかし、それも1カ月ほどで落ち着き、今では問い合わせがほとんどなくなった。