企業情報という“大河”を治水する--なぜ「連結経営システム」は必要なのか? - (page 3)

森川徹治(ディーバ)

2009-07-22 08:00

 生活習慣を整えるという視点では、企業情報開示義務の意義も無視できない。人間、まったく規則のない環境に放置されると、自己を律するのは相当難しい。企業も人間が運営するものである以上、同様である。企業情報の開示義務は、企業のあり方を牽制し、生活習慣を整えるペースメーカーとなる。

 今のところ、企業情報の開示要件は広がる一方だ。情報の精度もさることながら、対象とする情報範囲が広がり、サイクルは四半期となり、次々に法律も改正されている。

 よって、連結経営システムでは、経営情報だけでなく、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS、「国際会計基準」とも言う)への対応など、開示義務(財務会計、制度会計と呼ぶ)への対応も持続的にしっかりできることが前提となる。このように、経営情報データマートでありながら、外部からの影響を大きく受けるというのも、連結経営システムの特徴の一つである。

グローバル経営を支えるシェアードサービス

 連結経営システムには、さらに三つ目の顔がある。それは、グループ全社におけるシェアードシステム基盤としての顔だ。

 連結経営システムは、その役割から全グループ会社共通の唯一のシステム基盤となる場合もまれではない。別の見方をすると、グループ会社で共通のアプリケーションを提供するシステム基盤となる可能性を持っているということである。

 異なる複数の会社で共有するシステム基盤となると、多言語、多通貨、多会計基準という業務的視点のみならず、マルチテナント対応、異なるシステム間の連携、運用を効率化するインストールフリー対応などシステム要件も、親会社の連結決算システムとは別の次元のものとなる。

 なお、ここで提供される機能は、あくまで全体最適の視点で提供される機能であるため、既存のシステムを代替するものとはなりにくい。むしろ、補完するものとなる。各社の業務に最適化された基幹システムに対して、グローバル連結経営に必要な共通機能を提供する連結経営システムは相互補完関係により、グループ経営全体の最適化に貢献するものである。

企業情報という大河を治水する

 以上のように、連結経営システムは、スプレッドシートのようなエンドユーザーコンピューティングツールとしての顔と、連結経営に特化したデータマートという顔、そしてグローバル連結経営におけるシェアードサービスシステム基盤としての顔という3つの個性的な顔を持っている。

 企業情報を川の流れにたとえるなら、連結決算、連結経営というものは、最も“川下”にある。最下流である河口付近では、企業情報は大変な量になるが、それに流されることなく、しっかりと連結経営を実現するために、企業情報という“大河”を遡上しながら形創られた仕組みが連結経営システムである。ERPなど企業の基幹システムと、連結経営システムは個別会計という中間地点で交わることになるが、サプライチェーンや生産管理といった上流から順に整備されてきた仕組みとは、だいぶ性格が異なる。

 川の流れがそうであるように、企業の経営情報もさまざまな支流が合流し合う。連結経営の場合は、グループ各社の情報が流れ込み、一層大きな流れ、大河になる。連結経営システムは、情報河川の流れを受け止め、氾濫を防ぎ、企業情報の“治水システム”として機能するものである。

 人間の情報処理能力は高い、しかし、限界はある。情報の洪水に流されぬよう、しっかりと企業情報を治水し、グループ会社を擁する企業の舵取りに貢献する仕組みが、連結経営システムである。

筆者紹介

森川徹治(MORIKAWA Tetsuji)

株式会社ディーバ代表取締役社長。1966年生まれ。1990年中央大学商学部卒。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)入社、経営情報システムなど企業情報の活用に関わる多数のプロジェクトに関わる。1997年、株式会社ディーバを創業。以来、連結会計システムをはじめ企業の持続的な成長を支援するグローバル経営会計情報システムの創造と普及に取り組んでいる。

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