クラウドを議論する前に解決すべきこと(後編) - (page 2)

宮本認(ガートナー ジャパン)

2011-02-25 09:00

「うぅん……。雰囲気はわかるけど、相変らず、良くわかんないねぇ…。君の例えは」

「ま、その辺りは許してください。でも、言いたいことは、ユーザーさんのニーズのあり方、そのためのITの開発と運用のあり方、その意思決定の仕方が新しい時代に入ってきているのに、昔のやり方のまま、10年くらい経っているってことだと思うんです。ERP導入の時って、実は事務の人が本当のユーザーでしたよね? でも今もITといった時に本当にそこがユーザーですか? 開発・運用って子会社と子会社の下にベンダーさん付けてやっていますけど、子会社ってことは『単価が安い』が価値でしたよね? でも、安いを求めているのに、10年間くらい提案価値ってものとかを求めてきませんでしたか? これ、経済の原則に反してませんか? それに最近は少し変わってきましたけど、何かアプリケーションを入れるって時に、ユーザーが効果にコミットしないとできないけど、効果が定量的に出る案件って減ってきてますよね?」

「まぁね」

「世界のITは進化しながら変化してます。進化しているから当然、業務側のニーズも同じように進化しながら変化しています。その進化の流れに、実は日本企業のITの構造はついていけていないんです。これを、現代にあった形に変えていかないと、なかなか現代の企業経営において役に立つITにはなりえない」

「ま、雰囲気は分るけど…」

「少品種大量生産で利益を上げていた欧米の企業なんかも、このグローバル化にあわせて事業が複雑にならざるを得なくなる現状に直面しました。要は、多品種少量に手を出し始めました。当然、業務の考え方が変わってきてます。彼らは、結局何をやっているかというと、ITを根本から変えているんです。要は、事業構造が変わってきているんですから、業務構造も変わるんで、ITの構造も変えないと追いつけないです。それができないと、ITが業務改革をリードするなんてこと、できるわけがないんです」

「ま、ちょっと分ってきた。ウチができるかどうかわかんないけど、話は聞いた方が良さそうかな。とりあえず常務には、『古いITを抱えているウチなんかは、一部の領域だけ、クラウドを使うことを考える程度です』ってことで、ひとまず報告かな」

「そうですね。今日はありがとうございました。じゃ、別途日程はご連絡します」

今考え、答えを出し、行動すべきこと

 相談する側の情報システム部長といった方々は、多くの場合、重い責任を負っている、極めて聡明な方々なので「クラウドは衝撃的だ!」や「スマートフォンは画期的だ!」といったような、実際に記事に書かれているようなことを安易に言ってしまうと、集中砲火を浴びてしまう。多くの企業が抱えている本質的な問題を傍において、新しいものを提案する姿勢が攻撃対象となる。

 個人的には、多くのメディアやベンダーなどの『新しいものを追う姿勢』よりも、情報システム部長や情報企画課長が感じている『本質的な問題をどうするか?』にシンパシーを感じる。批判を恐れずに言うと、「日本企業のITは、クラウドなんて考えている場合じゃない」と思っている。

20年積み上げた間違いを正すこと

 「日本企業のITは、クラウドの前に考えるべきことがある」――。これを、このシリーズのテーマとしたい。

 すなわち、日本企業のITは、クラウドを考えるよりも先に考え、答えを出し、やらなければならないことがあるような気がしてならない。いや、そう確信している。

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