クラウドよりも先に考え、やらなければならない問題とは、ITの構造問題の解決である。ITの構造とはヒト、モノ(情報システムそのもの)、カネの構造そのものだ。
なぜベンダーは言ったことしかちゃんとやらず、提案を持ってきてくれといっても、良い提案を持ってきてくれないのか。なぜ情報システム部門は他の部署から「上から目線」で見られ、それだけならまだしも、慢性的な人材不足に陥っているのか。一方で、IT子会社はなぜ活性化できないのか。
なぜ未だにオフコンが残っていて、手のつけようがないのか。なぜERPがここまで巨大になってしまい、バージョンアップの時に巨額のコストを払わなければならないのか。なぜグループウェアがここまで複雑化してしまったのか。
なぜ、ちょっとした機能追加を行おうとすると、こんなにカネがかかるのか。なぜ、業務を更に洗練化するための新しい投資ができないのか。なぜ、基幹系の見直しを10年に一度やらなければならないのか。なぜ、そのためにかかる巨額な投資を経営に説明できない(効果の説明ができない)のか。
筆者は20年間にわたり、コンサルタントとしてITに携わってきた。
メインフレームでオンラインの会計システムを運用する仕事に始まり、ダウンサイジングされたクライアントサーバ型の基幹系システムを企画し、グループウェアを使って業務改革を進め、ERPの導入やCRM(顧客情報管理システム)の導入も支援してきた。インターネットが出始めると、eコマースをお客様と一緒になって企画し、2000年代になってからは、コストを安くするためにアウトソーシングの提案もした。
2006年にガートナーに移ってから仕事の内容はちょっと変わってきた。メインフレームやUNIXで作られたITの評価、ERPのコストやアウトソーシングのコストなどを、数多く評価するようになった。
さまざまなお客様のITを評価し、今後の新たな構造を一緒に考える中でわかったのは、その場その場で良かれと思い進めてきていることが、今となってはなんらかの間違いになっており、それを修正しきれていないということだ。
当然、一つひとつの施策は、多くのIT部門の担当やベンダーの方々が真剣に考え、議論し、成功のために血が滲むような労力をかけた賜物としてできあがっているのだが、全体として見た時には、カネがかかり、重たくて柔軟さに欠け、その効果は経営から疑われるものになってしまっている。筆者には旧大日本帝国海軍の大艦巨砲主義のような状況に陥っているように見える。
このシリーズでは、こうした問題を紐解き、どのように解決していくかを考えていきたいと思う。1回目となる今回では、こうした問題意識をご説明した。2回目では上述してきた現状の課題を体系的に整理したい。3回目では情報システムが抱えている構造問題の解決のヒントを記し、4回目ではカネとヒトの構造問題の解決策について考え、最終回で全体を俯瞰していきたいと思う。それはITの戦略である。
記述にあたっては、より分りやすく臨場感のある形でお伝えしたいため、上述したように情報システム部長とコンサルタントの会話という設定と形式で記述を進めさせて頂く。当然、すべてフィクションではあるが、実際のコンサルティング現場で行われている会話にかなり近いと思って頂いて差し支えない。
宮本認(みやもとみとむ)
ガートナー ジャパン株式会社
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo1/No2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。
編集:田中好伸
Twitterアカウント:@tanakayoshinobu
青森生まれ。学生時代から出版に携わり、入社前は大手ビジネス誌で編集者を務めていた。2005年に現在の朝日インタラクティブに入社し、ユーザー事例、IFRS(国際会計基準)、セキュリティなどを担当。現在は、データウェアハウス、クラウド関連技術に関心がある。社内では“編集部一の職人”としての顔も。