IT予算:2012年度は景気後退懸念から低成長に--戦略投資比率が上昇

田中好伸 (編集部)

2011-11-29 15:57

 2012年度は景気の後退懸念からIT投資は低成長が見込まれる――。アイ・ティ・アール(ITR)は11月29日、国内IT投資動向調査の一部結果を発表した。日本経済の成長力低下の危惧や3月の東日本大震災を受けて、国内企業のIT投資の動きと2012年度の方向性に着目している。

 2010年度調査では、リーマンショックの影響で大幅なマイナス成長となった2009年度から回復の兆しを見せている。だが2011年度は、予算額が前年度と比べて増額したとする企業の割合は24.8%と、2010年度(24.9%)とほぼ同水準になっている。前年度より減額したとする企業の割合は26.6%から20.5%と、2010年度調査から下降し、2011年度は全体として若干のプラス成長になったと分析している。

 2012年度に向けた予想では、IT予算の増額を見込む企業の割合が23.4%と下降する一方で、減額を見込む企業も減少している。このことから2012年度は、総合的に見れば2011年度と同じか、やや上回る水準でのプラス成長になると見込んでいる

 IT予算の増減傾向を指数化した「IT投資係数」で見ると、2011年度の実績値は2010年度の0.04から若干上向いて0.60になっている。2010年度調査の予測値である1.44には達しなかったが、東日本大震災から多くの企業が事業戦略の見直しを迫られていることを考慮すれば、わずかとはいえ、プラス成長になったことは評価すべきだとしている。だが、2012年度に向けた予想では0.83と小幅な上昇であり、今後も国内企業のIT投資は低成長で推移することをうかがわせる分析となった。

図 IT投資指数の変化(2001~2012年度予想、出典:ITR)

 企業の売上高に占めるIT予算比では、2011年度は3.0%と2010年度を0.2ポイント上回っている。3%台は5年ぶりだが、分母となる売上高が伸びなかったことが影響しているとも考えられるとしている。

 運用管理などで発生する“定常費用”を100としたときの戦略投資額(新規システム構築や大規模なシステム刷新に充てられる費用)の比率も上昇しており、過去最低となった2010年度の50.1から持ち直して、2011年度は60.2となっている。リーマンショック以降続けられてきた定常費用の削減努力が、ここに来てようやく実を結びつつあると評価している。

 今回の調査で大きな変動が見られたのがリスク対策費用の比率だという。IT予算に占める情報セキュリティ対策費用と災害対策費用は、どちらも2010年度から上昇。情報セキュリティ対策費用は12.5%、災害対策費用は7.0%になっている。

 災害対策費用は2006年度の調査開始以降で最高値としている。東日本大震災から多くの企業が災害対策を強化したことが見て取れるという。情報セキュリティ対策費用でも、国内企業で個人情報や機密情報の流出事故が相次いだことから、改めて高い関心が集まっていると説明している。

 2011年度のIT投資についてITRのシニア・アナリストである舘野真人氏は「震災で事業戦略が大きく見直される中、前年度から若干のプラス成長を維持している。災害対策や情報セキュリティ対策といったリスク対策費用は前年度から大幅に伸びており、緊急事態の中でITの重要性が改めて認識された1年」と評価。「近年低下し続けていた戦略投資比率が久しぶりに上昇に転じたことも好材料のひとつ」とも説明する。

 だが同氏は2012年度に向けて「全体のIT予算額がわずかな上昇にとどまると見る企業が多く、個々の製品やサービスに対する投資についても大幅な増加を見込む企業は限定的」と分析している。「既存の資産をいかにスリム化して戦略投資の余力を確保するか、災害やセキュリティに対する信頼性をいかに担保するかという取り組みがIT責任者の頭を悩まし続けるテーマになる」とコメントする。

 そうしたことから舘野氏は「経済の先行きが読みにくく、IT責任者は高い効果が見込まれる分野に迅速に投資を振り向けるためにも、選択と集中の姿勢がこれまで以上に強く求められる」と提言。「製品やサービスの分野では、モバイル端末やスマートフォンへの投資を拡大させるとした企業が目立った」と分析している。

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