既報の通り、日本IBMは3月30日、社長交代の人事を発表した。
同社は都内で緊急記者会見を開催し、代表取締役社長執行役員の橋本孝之氏と、次期社長に就任するMartin Jetter(マーティン・イェッター)氏が説明にあたった。
なお、イェッター氏の詳しい経歴については「日本IBM次期社長に元独法人社長が就任--マーティン・イェッター氏」を参照してほしい。
新社長はCEO“ジニー”直下の戦略担当
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イェッター氏は現在、米IBM本社でコーポレート・ストラテジー担当バイスプレジデント兼エンタープライズ・イニシアチブ担当ゼネラルマネージャーを務めている。
コーポレート・ストラテジー担当「バイスプレジデント」という立場は、レポートライン上では現CEOのバージニア・M・ロメッティ氏の直下に位置する。経営戦略についてロメッティ氏に直接報告する立場であり、戦略全体を統括、推進する役割を担っていると言えよう。
なぜ後任社長が日本人ではないのか
橋本氏とイェッター氏が会見で繰り返し強調したのは「人材のグローバル化」だ。
イェッター氏は「21世紀はグローバル人材を活用する世紀になる」と述べており、橋本氏の後任が日本人でないことに関する指摘を振り払った。
橋本氏も「IBMはグローバルカンパニーで、常に世界で活躍できるリーダーシップ(経営に近い場所で主導的な役割を果たす人物)を育成し、ライトポジションにあてることをやってきた……IBMグローバルの経営資源は、日本だけでなくグローバルにある。この資源の活用が今後のカギになる」と強調している。
また、橋本氏は自身の実績を振り返りながら、人材のグローバル化について次のように述べている。
橋本孝之氏
「私は2009年1月に社長に就任した。当時はいわゆる世界金融危機が起きたばかりで、日本のお客様は大変厳しい経営環境におかれていた。このような状況の中で、IBMではお客様の変革と新たな事業機会の発掘を支援すべく、『Smarter Planet』という社会インフラとITの融合による新しいビジョンを提唱した」(橋本氏)
「そのSmarter Planetの中で、2010年1月にグローバルIBMの中で先駆けとなる専任組織を社長直轄で設置し、クラウド事業を立ち上げた。日本IBMのクラウド事業は(グローバルの)IBMの中で世界をリードしている。また、昨今注目を集めているビッグデータに関しても、2009年7月に高度な情報技術を経営に活かすアナリティクス事業を開始している。また、日本企業のグローバル化の進展に伴い、2010年にIBMのグローバル統合経営をもとに、お客様がグローバル標準の経営を実践するソリューションを体系化した。そして、2012年4月から実証実験が始まる北九州スマートコミュニティ創造事業、さらに仙台・石巻をはじめとした被災地の復興計画にも積極的に参加する『Smarter City』に取り組んだ。これらのクラウド、BAO(ビジネス分析最適化)、Go Global(グローバル化の支援)、Smarter Cityと言ったようなSmarter Planet実現に向けた第1フェーズを私自身が完了できたというように思っている」(橋本氏)
「そしていよいよ第2フェーズに入るわけだが、これらの施策を加速するためには、全世界に分散しているIBMの経営資源を総合して日本のお客様に提供していく必要がある。お客様のグローバル化はますます加速しており、この期待に答えていくためには、人材、情報、知見といったグローバルな資源を最大限投入していく必要がある」(橋本氏)
イェッター氏は1986年、アプリケーションエンジニアとしてドイツIBMに入社。欧州や中東で経験を積む機会を得るなど、「数々のオポチュニティを与えられた」という。特に印象に残っている仕事は、当時、米IBM会長兼CEOを務めていたルイス・ガースナー氏のエグゼクティブアシスタントを務めたことだという。
記者の質問に答えるイェッター氏。会見には多くの報道陣がつめかけた
それゆえ、「IBM本社でも、リーダーシップは、南アフリカの人がいたり、イタリアの人がいたり、非常にカラフルだ……ビジネスがグローバル化するのは今、正に自然な流れだと考えている。だからこそ、人材をグローバルに採用していかなければならない」と語る。
5月15日付けの社長交代までは、しっかりと引き継ぎをしたいと語るイェッター氏。橋本氏とは長年に渡って友人として交際していたとも述べており、「この任に就くにあたり、さまざまに指導してもらえることを頼もしく思うとともに、楽しみにもしている」と語る。橋本氏も今後は「会長として新社長を支援する。また、お客様、パートナー、政府など、ステークホルダーとの関係強化に注力していく」とコメントしている。
社長交代とスルガ銀行との係争の関連は
なお、会見では、スルガ銀行と日本IBMとの裁判(3月29日に日本IBMが敗訴、30日に東京高裁に控訴)との関連を問う声もあがった。橋本氏は「今回の人事とは全く関係ございません」とコメントしている。
また会見後、記者団の取材に応じた橋本氏は「後継者リスト」を作成していたことを明らかにしており、その中にイェッター氏の名前があったことを認めている。このリストは橋本氏個人のものというよりも、事業継続計画の一環として企業が作成するような性格のものであったことが伺える談話だった。