アップルのティム・クックCEOが快進撃--「社内一の働き者」「表計算シートの鬼」との評も

三国大洋 2012年04月20日 15時52分

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 アップルのティム・クックCEOの快進撃が続いている。

 とくに今年に入ってからの働きぶりは目覚ましく、「八面六臂」とはこういうことをさすのか、というほどの活躍と思える。

 下記の図は、そうした動きを整理する目的でつくってみたもの。


3月末までの動向をまとめたもの(註1) 3月末までの動向をまとめたもの(註1)
※クリックで拡大画像を表示

 実はこれに続けて、「でも、まだまだこんなに課題も残ってるんだよね」というような原稿を書いていたのだが、その筆頭に持ってくるつもりだったAndroid陣営との「特許戦争」(註2)についても、今週に入って「サムスンとのトップ会談で『手打ち』の途をさぐる」という大きな方向転換の発表があった。また、中国のサプライチェーンに関する問題も同様で、先月末にフォクスコンの労働条件・環境の改善に向けてメドをつけたと思ったら、返す刀で今度は環境汚染問題の調査対策に乗り出すという。

 ティム・クックCEOについては、ずっと前に「スティーブ・ジョブズを陰で支える(もうひとりの)天才」といったタイトルの記事を読み、また「表計算シートをつかった管理の達人で、細かな異変も見逃さない」などという逸話も目にしていた(註3)。だから、たぶん相当な「切れ者(カミソリ)」なんだろうな……くらいに想像していたのだが、正直これほどテキパキと——それも比較的大きな課題を次々に片付ける人とは思ってもいなかった。

 同時に、その時々に「仮想敵」(あるいは揶揄する対象)を作り、ファンや社員を鼓舞するといった「派手なこと」が上手だったスティーブ・ジョブズに比べると、本人は目立つことをしないが、それでも「音も立てずに着々と成果を出していく」というクックCEOのほうが、競合相手や影響を受けそうな立ち場の者には余計に手強い存在かもしれない。

 「カマイタチのように、知らないうちにスパッと切られているかもしれない」のは、想像するだけでも怖い。(編集部:本文より註の方が長いため、とりあえずスキップして次ページを読みたいという方はこちらをクリック「いよいよ表舞台に出始めるティム・クックCEO」)

註1:アップルの動向をまとめた表について

このなかで、とくに色線で関連を示してあるのは、クックCEOが課題をしっかりこなしたこと(青線の株主対策に至ったもの)や、New York Timesに「売られた喧嘩」(?)にきっちりケリをつけていることをはっきりさせるためだ。後者については、FLAの監査に加え、米国内で「51万4000人の雇用」を創出ならびに支援したという調査結果で、NYTimesの「2面攻撃」をそれぞれ粉砕した感がある。

また、NPR(National Publich Radio)の有名番組「This American Life」で年頭に放送されたマイク・デイジーという芸人の「フォクスコン労働環境の告発」についても、アップル側がどの程度関与したかは知る術もないが、新型iPadの発売と同日にこれが「随分と勝手に脚色されたものだった」と番組側が不十分な裏取りだったことを認めて謝罪したことから、この番組に端を欲した抗議行動などもほぼ自然消滅になった感がある。

そうした、ある意味ふって沸いた事柄にしっかり応酬し、しかもその間に長らくタブー視されていた株主配当の実施をしれっと発表したり、さらにはiOSアプリの個人情報の取り扱いでちょっとした騒動を起こしたPathのデイブ・モーリンCEOを呼びつけて、他の幹部と一緒にしっかり「事情聴取」したなどのエピソードまで伝えられているから、まったく恐れ入る。

An engineer in Singapore revealed the transgression on his blog in February, and Path co-founder Dave Morin got hauled into Apple’s headquarters to be grilled by Chief Executive Officer Tim Cook and other executives, according to people familiar with the meeting but not authorized by Apple (AAPL) to discuss it.

Anarchy in the App Store - Businessweek - Businessweek


註2:「特許紛争」の終結
Businessweek誌 Businessweek誌『Apple's War on Android』(4月2日号)
※クリックでBW誌の記事にアクセス

モバイル端末をめぐる特許侵害をめぐり、アップルが世界各地であわせて30件以上の訴訟を続けていることは周知の通り。この背景や現状、今後の見通しなどをまとめた特集記事をBusinessweekが3月末に掲載していた。

おどろおどろしい色使いのイラストまでついたこの記事は、たいそうな分量を割いて、ジョブズが生前に「息絶えるまで戦い抜く」「(アップルの)有り金すべてを使いきってでも、この誤りを正す」と言ったとされるAndroid陣営との特許をめぐる争いについて取り扱っている。

He explained to his authorized biographer, Walter Isaacson, that the litigation against device manufacturers was meant to communicate an unmistakable message: "Google, you f-king ripped off the iPhone, wholesale ripped us off. Grand theft." Jobs swore he would "spend my last dying breath" and "every penny" in Apple's coffers "to right this wrong. I’m going to destroy Android, because it's a stolen product. I'm willing to go to thermonuclear war on this."

過去の経緯などを踏まえつつ、法廷でのやりとりもさらいつつ、知財分野の専門家の見方も紹介しつつといった内容で——こちらとしては「要点をかいつまんで」というのがなかなか難しい——、この法廷闘争がアップルにとっては「両刃の剣」であり、あまり深入りしすぎると却って自らのクビを絞めることにもつながりかねないという材料が数多く並べられている。

"Patent suits are a double-edged sword," says Willy Shih, an intellectual property scholar and professor of management practice at Harvard Business School.

そして、最後のほうに、「ティム・クックCEOは前任者とは異なり、あらゆる敵を打ち倒すことにそれほど情熱を抱いているようには見受けられない。訴訟を必要悪とみなしてはいるが、壮大なリベンジの手段とは考えていないようだ」という一節もある。

Apple CEO Tim Cook does not seem to share his predecessor's passion about laying all foes to waste. Cook appears to view litigation as a necessary evil, not a vehicle of cosmic revenge.

クック氏が、CEO就任からの比較的短い間に、かなりはっきりと独自色を打ち出してきたことを考えると、「『泥仕合』の様相を呈する特許絡みの訴訟合戦をいつまでも続けても仕方がない」「長引けば長引くほどリスクも高まる」と判断して、いっきに「手打ち」に向かうといったことがあっても不思議はないようにも思える……そんなふうに書いていたら、さっそく「トップ会談」という話で、とても驚いた次第。

なお、「深入り」という点については、たとえば、アップルが主張するiPhoneやiPadのいわゆる「デザイン特許」について、北部カリフォルニア連邦地裁で対サムスンの訴訟を担当するルーシー・コー判事は、サムスンの言い分に「同情的」という記述もみられる(このコー判事が「当事者同士の話し合いによる解決」を働きかけた人物)。

具体的には、アップルがGalaxyシリーズのスマートフォンの販売仮差し止めの材料として使おうとした自社のデザイン特許については、シャープが日本で先に取得していた特許(下図、右のもの)が「先例」("prior art")にあたるとしてこれを認めなかった。

ざっくりというと、「長方形で、丸い角をした、ごちゃごちゃといろいろな装飾がつかないスマートフォン」のデザインを自社が考案したものというのは無理がある、ということになろう。

Court denies Apple's motion for preliminary injunction against Samsung products

これに関して、ひとつ面白いと思えたのは、たとえばさまざまタイプやモデルの携帯電話を作っているサムスンであれば、特定の端末の特定の機能が「特許侵害」とされても、その部分に修正を加えるだけで問題を回避でき、事業全体への影響が比較的小さくて済む。それに対して、iPhoneは基本的に1モデル(古いモデルを含めても2〜3機種)しかないため、「急所を突かれた場合」の潜在機ダメージが大きい、という指摘。


註3:スティーブ・ジョブズを陰で支える(もうひとりの)天才

Tim Cook: The genius behind Steve」という2008年のFortune誌の記事。これと、2011年5月に雑誌(紙)に掲載された「How Apple works: Inside the world's biggest startup」などを元に、筆者のアダム・ラシンスキー記者が新たに書き起こしたのが、日本語版が先月下旬に早川書房から刊行された『インサイド・アップル』という書籍だ。

アップルの秘密主義の壁に阻まれてか——とくにFortuneは「The trouble with Steve Jobs」という2008年の記事で、その秘密主義を含むアップルの「企業ガバナンス」の問題を叩いていたから、いっそう壁が厚くなったのかもしれない——、「周辺にいる関係者からの聴き取りだけで、当事者からの話が乏しいじゃないか」というようなツッコミも散見するけれど、それでもいろいろと興味深い逸話が出てくる。

その一部を挙げてみると:

  • 「極めて内気」
  • 「アップル社内でもずっといちばんの働き者で、朝4時半頃からメールが飛んでくる」
  • 「午前5時半にはスポーツジムで身体を鍛えている」
  • 「月曜恒例の最高幹部ミーティングに備えて、前の晩から部下とミーティングしている」
  • 「表計算シートの鬼で、細かい点も見逃さず、『何行目の何番目にある異常値の根本的な原因はきちんと把握できているのか』といった質問が担当する部下に飛んでくる」
  • 「10項目の質問をして、相手に1つでも答えられない点があると、次には20個質問する」
  • 「あるミーティングの席で、中国のサプライヤー絡みで生じた問題について皆で議論した後、20〜30分ほどその場に残っていたその件の担当者に一瞥をくれると『なぜまだそんなところにいるんだ』と一言口にした。言われた担当者は慌てて部屋を飛び出し、着替えの荷造りもせずに空港へ直行。帰りの予定も決めずに飛行機に飛び乗った」
  • 「(ダメと思った相手には公衆の面前でケチョンケチョンにいったスティーブ・ジョブズとは対象的に)決して声を荒げることはないが、それでも相手に『できません』とはけっして言わせない」
  • 「つべこべいうような相手には、文字通り『睨みをきかせて』結果を出すことを求める」

……など、それこそ枚挙にいとまがない。

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