三国大洋のスクラップブック

「アメリカでいちばん意地悪な会社」ディッシュ・ネットワーク - (page 2)

三国大洋 2013年01月10日 13時02分

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 さて、ディッシュの実態はこのようなものだ。

  • 薄給(具体的な金額は記載無し)
  • 長い残業は当たり前(強制的、しかも残業手当無し)
  • 以前は社員証代わりのIDカードを使って社員の出退勤を記録していた。ところが、IDを他の社員に預けて実際より早く出社したように見せかけるという悪用例があることに気付いたアーゲンは、さっそく指紋認証システムを導入。さらに社員が始業時刻に1分でも遅れて出社すると、そのことを知らせるメールが上司に自動送信されるようにした(メールの送り先にはアーゲン自身が含まれる場合もある、とか)
  • 朝9時の定時出社は厳守。自宅に持ち帰った仕事で徹夜していたとしても、まったく配慮されない。
  • 出張手当は出るが、旅先での食事の際に会社の規定を越えるチップを払った場合は、たとえ1セントでも差額分を給与から差し引く
  • コロラド州デンバーのディッシュ本社付近では、冬になると積雪のために通勤時間が余計にかかってしまい、定時出社が難しくなる従業員が相次いだ。ところが、それが気に入らないアーゲンは社員に向かって「雪が積もりそうだという天気予報が出たら、会社近くのホテルに泊まれるように部屋を予約しろ」と言った。もちろん、ホテル代はそれぞれが自腹で払うこと、とクギを刺してもいる
  • ノルマ達成など優れた成果を残した社員に何らかの報償を出すことはめったにないが、それでもある年にはそういう珍しいことがある社員に起こった。ただし、その中味というのが「特別有給休暇1日」。報償のおかげで感謝祭の週末に連休をとれた社員は「あんなこと、十数年間で一回だけ」とコメント
  • アーゲンはフリトレーの会計士として社会人生活のスタートを切った人物。そのせいもあってか、いまだにお金の出入りに厳しく目を光らせており、10万ドルを越える支出は自分の決済がないと通らないことにしている。ディッシュは年間売上14億以上ドルもある大企業なのに、だ
  • カスタマーサポートにかかってくる電話の95%が、怒った顧客からの抗議

 そういった環境だから、とうぜん社員の離職率も高く、外部から雇われてきた上級幹部でさえ長くは続かないケースが少なくない。とりわけ創業者のアーゲンが良くも悪くも曲者で、従業員を単なる人手と見下している風もあり、他の人間がいるところで部下を大声で叱りつける姿が目撃されることも珍しくはない。

 10年にわたってディッシュで働き、コミュニケーション部門の責任者にまでなったある元幹部のコメントやエピソードは特に面白い。「あの10年間は生きた心地がしなかった」というこの女性幹部、ある時アーゲンからひどく怒鳴られて、「あんまりだ、辞めてやる」と所持品をまとめて会社を飛び出したが、駐車場まで追いかけてきた取締会のメンバーがアーゲンに代わって謝り、思い留まるように説得された。クリントン政権時代にホワイトハウスに勤務した経験をもつ友人からは、「アーゲンもクリントンと一緒で、自分が気にかけている相手にしか叫んだりしない」と慰められたとか。

 その一方で、彼女が住宅ローンの返済資金に困り、「ストックオプションはいらないから、代わりにその分を現金でほしい」と掛け合ったが、アーゲンは「それでは後悔することになる」とこの要望を却下。ところが、それから間もなくディッシュの株価が急騰して、女性幹部は大きな利得を手にすることになった。また、同社を離れたこの女性が自分で会社を興したと聞いて、アーゲンが「ついに君も起業家になったか」と敬意を示した、とか。

 別の元COOは、自分が辞めたいと思った最大の要因として、アーゲンがほとんど権限を委譲しない、つまりいろんなことを独りで決めてしまうから、という理由を挙げている。

 たとえば100人以上の人間がマーケティング部門に在籍していたにもかかわらず、アーゲンは新しい料金プランの具体的金額を自分で決めて、部下に「これでいくぞ」と言い渡したこともあるという。さらに、もっと始末に負えないのは、そんなふうに独断で下したアーゲンの判断がほとんどの場合に正しかったことだそうで、この元COOは「それなら俺の出番はないや」とでも考えたのか、結局8カ月でディッシュを辞めたという。

 そんなアーゲンの「極端なまでのマイクロマネジメント」ぶりは、ほかにもいろんな例があるようだ。たとえば「昼食はどんな事情があっても11時30分から14時の間にとらなくてはならない」「食事中も仕事ができるように、自分の席で昼食をとることが奨励されている」といった話も紹介されている。

 アーゲンのそんな型破りの人あしらいがディッシュのカルチャーと化している節もあり、相手がウォールストリート関係者(投資家筋)であろうとまったくお構いなしという記述もある。ある著名な証券アナリストは、駆け出しの頃に「経営陣の考えを伺いたいので、ぜひ面談の機会を」とディッシュにインタビューの申し入れをメールしたところ、「俺たちは株主のために価値を生み出すのに忙しくしていて、そのことについての話をしている暇はない」と、まったく素っ気ない返事をよこされたという。なお、このアナリストはその後、通信・放送分野をカバーするアナリストのナンバー1に7年連続で選ばれるまでになったが、ディッシュの対応ぶりはちっとも変わっていないとコメントしている。

 この投資家筋への無関心については、チャーリー・アーゲンがいまなお株式全体の過半数、そして議決権の9割以上を保有していることとも関係があるかもしれない。

 そんなディッシュの経営について、ここで少し触れておきたい。

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