エリック松永のメディア・デモクラシー講座

音楽とは違う--動画ビジネスをリードするのは個人ユーザー - (page 3)

松永 エリック・匡史(プライスウォーターハウスクーパース)

2013-04-13 10:00

テレビ局にとっての新たな活路

 これらテレビ局大手の動きは、テレビ局が既存の非インターネットサービスの対する危機感から新しい活路をインターネットの動画共有サービスに見出そうとしていることを示しており、一定の感触をつかんできているといえるでしょう。一方、インターネットに消極的だった日本のテレビ局も、2010年3月時点で民放キー局の5局すべてが「GyaO」への出資を始めており、GyaO!が運営する無料・有料動画サイトへの動画提供を行っています。

 今後各テレビ局が保有する動画コンテンツのインターネット上での配信が、より活発になることは間違いないでしょう。

「放送と通信の融合」のゆくえ

 「放送と通信の融合」は、一時期ライブドアが目指していて話題になりましたが、インターネット上での配信が盛んになることにより、「放送と通信の融合」は着々と進行しているといえるでしょう。この動きは海外のほうがより活発に進んでいますので、日本のメディアは今後も海外での動向には注意し、今以上に迅速な決断をしていくことが重要になってきます。

参考:日本のTV局のインターネット配信サービス取り組み状況
テレビ局サービス名備考
NHKNHKオンデマンド・見逃しサービスは番組放送の当日または翌日から14日程度の期間視聴可能
・見逃し番組が配信期間中何度でも視聴可能な「見逃し見放題パック」も提供
日本テレビ「日テレオンデマンド」・見逃し配信は放送翌日より提供
・現在放送中の番組が見放題となる「見逃しパック」を提供
テレビ朝日「テレ朝動画」見逃し配信サービスを提供
TBS「TBSオンデマンド」見逃し配信サービスは放送翌日より提供
フジテレビ「フジテレビオンデマンド」・見逃し配信サービス提供
・1話ずつ購入に加え、放送中の1つの番組が最終回放送の翌月末まで見放題となる「見逃しパック」も提供
テレビ東京「テレビ東京オンデマンド」
「テレビ東京ビジネスオンデマンド」
・見逃し配信サービス提供
・テレビ東京ビジネスオンデマンドは2013年3月より開始


映画は見放題だけで大丈夫なのか

 YouTubeでは比較的短い尺の個人投稿や音楽コンテンツを想定していたため、映画のような長時間のコンテンツの環境としては利用されてきませんでした。しかし、映画のインターネット動画配信に関して、iPhoneに代表されるスマートフォンでの視聴環境が整ってきたことで、映画の視聴は映画館や部屋といった固定エリアを超え、電車や車の中などの移動エリアにまで拡大しており、さらなる利用者が見込まれています。

 この流れを受け、強い配信技術を強みにYouTubeでも映画チャンネルを設置しコンテンツ単位で有料サービスを開始しています。

 また、視聴環境の変化は映画の制作にも影響を及ぼす可能性があります。映画館のスクリーン、大画面のテレビで面白いコンテンツが、必ずしも小さな画面のスマートフォン、タブレットで面白いとは限らないからです。視聴環境に応じて視聴者がどんなコンテンツを好むのかは、今後データ分析によって明らかになっていくでしょう。

 映画配信では、Appleテレビに代表されるタイトルごとに課金するPPVのサービスが主流でしたが、最近では見放題系で、大手テレビ局、映画会社が出資し、コンテンツが充実している定額動画配信サイトである「Hulu」が注目を集めています。Huluは日本でも980円という低価格で人気の映画やドラマを定額で見放題視聴することが可能です。定額系は音楽でも「Spotify」が急成長をしており、見放題、聴き放題は今後のサービスのキーワードになるでしょう。

 PPVでも見放題でも、視聴するコンテンツの量が増えるにつれ、配信側はコンテンツの量から視聴意欲を促進させるような仕組みが必要になってきます。

 これは配信サービスの「質」の重要なポイントであるといえるでしょう。レコメンデーション機能はより重要になり、どのようなユーザー情報、外部情報からユーザーの視聴意欲を喚起するコンテンツを推奨できるのかについて各社試行錯誤を重ねている状況です。

 レコメンデーション機能についてはビッグデータの活用、分析やデータサイエンティストの役割が重要なものになってきます。このテーマについては次回取り上げたいと思います。

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