「Google Glass」(以下、Glass)というちょっと得体の知れない新しい端末が一部で出回り始めたせいか、どことなく薄気味の悪いところもある、このガジェットをめぐる話題が最近目につくようになっている。今回はそんなGlassにまつわる記事の中から気になった話を少し紹介してみる。
[Google Glass Sketch - Saturday Night Live] (老舗のお笑い番組「Saturday Night Live」(SNL)でさっそくネタにされたGlass)
トイレの中まで「Glass男」が……「Google I/O」でのある光景
The New York Times(NYTimes)のBitsブログでリードライター(主筆)をしているNick Biltonという書き手がいる。同社のデジタルメディア開発などにも関わった経験があるというちょっと変わったところのある記者である。そのBilton自ら「ガジェット好き」を任じるだけのことはあり、米メディア関係者の中でもかなり早い時期(註1)からGlassに関する動きなどを追いかけてきている。
おそらくこのBiltonと、そしてThe Verge編集長のJoshua Topolskyあたりが今一番良くGlassのことを知っているジャーナリストではないかとにらんでいる。
[I used Google Glass] (Glassの先行レビュアーになったTopolskyの取材ビデオ)
さて。そんなオタク(nerd)のBiltonが5月半ばにあった「Google I/O」カンファレンスに参加して、なんとも薄気味悪い思いをした……という話を書いている(註2)。Biltonを怖がらせたのは、同カンファレンスの会場のそこかしこに居たというGlass着用者。ただし「Glassをしたままスマートフォンを使うという本末転倒」なユーザーの姿や、あるいは「一塊になった5人の人間が黙って宙をじっと見つめていた(実はGlass経由で通信していた)」などというだけでは勿論怖くなったりはしない(SNLで笑いのネタにはされようが)(註3)。
Biltonが不気味に感じたのは、「ウィンクするだけで写真撮影できる」というGlassのカメラ(の裏技:註4)を使う癖がすっかり身についてしまったせいで、着用していないときにも「ついウィンクしてしまうようになった」という男と話をした後、トイレに足を運んだ際のこと。
「ついウィンクしてしまう」男と話している間にも、その男が自分の方を見ながらまぶたを動かす様子を目にして、「写真を撮っているのか、それとも目に入ったゴミを避けようとしているだけなのかが分からなかった」などという一節もあるので、すでにBiltonの中には嫌な予感のようなものがあったのかもしれない……。
いずれにしても、Biltonがトイレに入り、ほっと一息ついて用を足そうとしたとき、彼の横に並んで(先に用を足して)いた数人の男たちがいずれもGlassを付けたまま、左右を見回し、瞬きした……などとある(註5)。
この記事の中で指摘されているプライバシーへの懸念、特に「記録されたくはない第三者の権利保護」といった事柄に関しては、すでに米連邦議会からGoogleに対して問い合わせの書簡が送られていたりもする(註6)。
この公開質問状(PDF)の書面を見ると、全部で8つある質問項目の筆頭に「(Glassの)ユーザーおよび非ユーザーに関するデータが、本人の同意なしに、意図せぬ形で収集されてしまうことを防止するために、Googleではどのような措置を講じるつもりなのかを教えてほしい」などとある(註7)。
なお、この質問の「枕」の部分には、一時世界各地で騒動になったGoogle Map StreetView Carの無断情報収集の話が出ている。StreetView Carなら責任の所在(撮影主体)はGoogleだから、苦情の申し立て先も至って分かりやすいし、そのおかげで(後に実装された)被写体側からの「オプトアウト」のような善後策も導き出しやすい。
撮影主体がまったく分からないGlass
それに対して、Glassの場合は撮影・記録の主体はどこの誰になるかも分からないわけで、StreetViewなどとは比べものにならないくらい厄介なことにもなりかねない感じがする。
おそらく、一番厄介なのは、Glass着用者自身も撮った覚えのなかった被写体(第三者)の画像が、ソーシャルメディアでの画像共有などを通じて、後で全く想定していなかった人間の目に触れる、といったことだろう(それで誤解が生じ、夫婦げんかに発展しまったら……などと思うと気が気ではない)。