開発者が自分のコードを早くリリースに取り込んでもらいたいと考えるのは理解できますが、不完全なコードが紛れ込むと、2週間でマージさせて6~7週間でテストというプロセスがきつくなってしまいます。これについては、ちょっと不満を感じています。
Hohndel:何か対策はあるのでしょうか。
Torvalds:これは最終手段ですが、特定のサブシステムの出来があまりにも悪い場合は、そこからのコードは(今回のリリースでは)受け付けいないという措置を取ります。
私から言えるのは、なるべく自分たちでクリーンアップしてから上流に送ってくれということだけです。私の仕事は統合することですから、みなさんからの変更要求にはできるだけ「イエス」と答えたい。でも、時には「ノー」と言わざるを得ないこともあります。
Linuxコミュニティの多様性
Hohndel:ここで話題を変えましょう。Linuxコミュニティの多様性についてです。Linux Kernel Summitなどの開発者会議で撮られた写真を見ると、そこに映っているのは白人男性が大多数です。あまりバランスが良くないと思うのですが、いかがでしょう。
Torvalds:コミュニティ全体では、良くなってきているとは思います。Kernel Summitには過去10年、15年とLinuxの開発に携わってきた人しかきませんから、現状を正しく反映しているとは言えません。例としては不適当でしょう。
ただ、オープンソースの世界はいまだに女性の参加者が少ないとは思います。多少は良くなっていますが。
一方、人種の面ではかなり改善されています。私が初めて日本のLinuxConに参加したとき、カーネルにかかわる日本人開発者はわずかしかいませんでした。今では、日本をはじめとするアジアの開発者が数多く参加しています。
質問者:女性の参加者が少ないということですが、Linuxコミュニティに女性や若い人を呼び込むにはどうしたらよいでしょう。
Torvalds:今回の会場にはあまりいませんが、Linuxのカーネル開発に若い人がいないというわけではありません。大学でOSの研究をしている学生の中には、Linuxの開発に参加している人もたくさんいます。
一方、女性は明らかに不足しています。そこで女性を引き込むために、IntelのSarah Sharpさん(Linux USB 3.0の開発担当者)が「Linux Kernel Internship」というプロジェクトを進めています。若い女性にパッチをサブミットしてもらおうというプロジェクトで、2カ月前に始まったばかりですが、非常にうまくいっています。
教育制度とオープンソース開発
質問者:スイスでは、学部レベルの学生がカリキュラムの一環として、(OSSのクラウド構築ソフトウェア)「OpenStack」の開発に参加している例があります。IT業界の多くの分野では米国企業が主導権を握っていますが、オープンソースのアクティビティは欧州発のものが少なくありません。この点について教育制度の観点からご意見をいただけないでしょうか。