イノベーションの射程距離
銀行の新型ATMの議論、宇宙の話と並べるとスケールの小さい話に聞こえるが、これはこれで面白い。これまでネット系サービスに主役を奪われてあまり注目を浴びることのなかったATMで、さまざまな革新が起きようとしているのだ。
そして、そのユーザーインターフェースに大きな影響を及ぼしているのがiPhoneやiPadであり、ネット系企業との競争である。しかし、同じ決済サービスにおいても、宇宙を語り始めるPayPal、そして、その宇宙空間での通信技術の議論を始めるGoogleとは、そのスコープにおいて大いなる差が存在することも事実である。
とはいえ、もし「大手銀行が宇宙空間での決済サービスについて検討を始めました」と聞かされたら、その違和感は尋常ではなく、そんなことにお金を使うくらいなら、利用者の利便性を高めることにもっとお金を使ってほしい、金融システムの安定性こそが第一ということになるだろう。
逆にGoogleがATMの開発に取り組み始めたら、何もそんなことしなくてもと感じるはずだ。つまり、この両者の間には、イノベーションへの取り組みに関して、その射程距離に大いなる差が存在している。
もし、企業の経営者が「将来の姿をまず描いてから、そこへ向けた経営戦略を立てて下さい」と言われた時、その時間と空間の射程距離はどこまで伸びるであろうか。半年後か、10年後か、50年後か。隣の国までか、世界全体か、宇宙空間までか。恐らく、そこで無意識的に出てくる時間と空間の広がりこそが、その企業の現在の射程距離だ。
その距離であるが、銀行が長くし過ぎれば違和感があり、ネット起業が短くし過ぎても違和感がある。つまり、その企業や産業に対応した、適切な射程距離というものが存在しているように感じられる。
それは、長ければ良いというものでもなく、短ければ良いというものではない。むしろ、どの射程距離で勝負するのかに意識的になるということが、重要なのではないか。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。