2050年、ビッグデータはいかにして90億人の食生活を支えるのか(前編)

Lyndsey Gilpin (TechRepublic) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2014-05-29 07:30

 機材小屋の中にある、埃っぽい木の階段を上った先にあるオフィスからは、何マイルにも及ぶ緑の農地と、砂利道に並んでとめられている巨大なコンバインが見渡せる。インディアナ州パルミラにおける4月のある涼しい、雨の降りそうな日のことである。そこでは6人の男達がテーブルに集まり、コンピュータの画面をのぞき込んでいた。

 話し合いは終わろうとしていた。個人で農業を営んでおり、オハイオ川を越えてやってきたJeff McGee氏は、収穫量モニタが入った薄い段ボール箱を手渡された。彼はその段ボール箱を不安そうな目で見た後で小脇に抱え、アカウントの設定方法や、どこで新しい「iPad」を購入できるのかについて静かな口調で質問した。彼はクレジットカードをThe Climate Corporationの営業担当者に手渡し、カード番号が端末に入力されていくさまを見守っていた。その背後では、この週の初めに収集された土質検査の結果が手際よくタイプ入力されていた。また、机の上に置かれたタブレットがビープ音を発し、クラウドデータとの同期の完了を通知していた。コンピュータの画面上には、近くの農地の赤外線写真が映し出されており、この1週間の降雨状況が表示されていた。

 McGee氏はあたりを見回した。同氏の表情には疑念の色が浮かんでいたものの、声は自信に満ちあふれていた。同氏は「垣根を越える最初の人間にはなりたくなかったが、最後の人間にもなりたくなかった」と述べた。

 同氏はドアに向かう前に祝福の握手を求められた。このテクノロジのことを同氏に伝えた大規模農園事業の所有者であるRobert Jones氏は、着ているオーバーオールを整えた後、満足そうな様子で椅子に座った。これは農業を変える重要な1日となるだろう。

 McGee氏はこうして近代農業の世界に足を踏み入れたのだ。


様変わりしつつある業界

 農業従事者らは自らの農地を隅から隅まで知り尽くしている。また、作物の成長ぶりをつぶさに把握しているし、作物を食い荒らすあらゆる害虫についての知識も持っている。さらに、風や雨、雪、霜、熱波、砂埃といったものすべての影響についても熟知している。

 しかし、彼らには限界がある。農業従事者はたいていの場合、自らの収集したデータを活用するだけのマンパワーも、資本も有していない。はっきり言って、そういった時間がないのである。このため10年来、同じツールを使い続けている。それらはトランシーバーや「Microsoft Excel」のスプレッドシート、食料生産科学を研究している農学者にデータを渡すためのUSBメモリといったものだ。

 ここ数十年のテクノロジブームの間、農業分野にはデータ収集テクノロジが静かに浸透してきている。John Deereブランドの農機具で知られるDeere & Companyは自社製品にデータシステムを組み込み、農業従事者らは物置やコンバインでWi-Fiを使用するようになり、大規模農場は運営管理のためにソフトウェアを使用するようになった。しかし普及は緩やかであり、システムはソフトウェアに対する囲い込みや、農場で使用するさまざまなツールやブランドとの非互換性のために邪魔者扱いされることもしばしばあった。


Jeff McGee氏は、ケンタッキー州ブランデンブルグにある自らの農場を監視するためにThe Climate Corporationとのサブスクリプション契約を結んだ。
提供:Lynsey Gilpin/TechRepublic

 パデュー大学の農業・生物工学部門で教べんを執るDennis Buckmaster氏は、「パズルのピースはそろっていたが、誰もそれを解く手段を持っていなかったため、偽りの希望が生み出され、農業従事者らやその管理者らの側に不満が存在していた」と述べるとともに「このままでは何も生み出されないため、良い状況ではなかった。ある者は制約のあるやり方で使用したが、最初に約束されたものほどの成果は生み出されなかった」と述べている。

 2050年までにこの惑星の人口は90億人になると言われており、食糧確保が急務となっている現在、農業従事者たちは不安定な状態に置かれている。彼らは次第に大きくなる食料難に対する恐れを知りつつ毎日を過ごしながら、しばしば時代遅れだと捉えられる職業にしがみつき、21世紀なりの進歩に向けて努力を続けてきているのである。

 そこにMonsantoが入り込んできた。

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