ソニーを覚えているだろうか。日本の革新的な企業として、クールな消費者向け電子機器の分野で何十年にもわたって優位に立っていた。1950年代のポケットサイズのトランジスタラジオ(同社は現在も製造している)から始まって、「Trinitron」テレビやビデオレコーダー、「WALKMAN」、MiniDisc、Betamax、Video8、DAT、光学ディスク、3.5インチディスク、Blu-ray、「PlayStation」シリーズなど、技術的に優れた製品を他社に先駆けて開発してきた。
デザイン性の高い革新的な製品を高い価格設定で売るというソニーの消費者向け製品戦略は、Steve Jobs氏の下でAppleが採用した戦略に似ていた。Jobs氏は企業の支持を求めることを嫌がった(利益になるサーバやストレージの事業よりも「iPhone」に注力した)が、Appleのその姿勢はTim Cook氏の下で明らかに変わっている。
それはAppleにとって非常に良いことだ。
ソニーの画期的な製品である「ポケットサイズ」ラジオ「TR-63」。
提供:Sony Corporation
次々にヒット製品を生み出せる間は、ソニーの業績は好調だった。しかし、松下電器産業(現パナソニック)などの他社はソニーを観察し、ソニーが市場の存在を証明した後で、より安価な類似製品を大量生産していた。
サムスンが学んだように、裁判所がAppleのデザイン特許を骨抜きにしたことで、これは非常に有効なビジネスになり得る。何といっても、サムスンはApple製品の多くの部品を製造しているので、Appleより有利な立場にいる。そっくりにコピーすれば、製品が完成というわけだ。
Appleの魔法のような10年間
AppleとIBMの提携は両社にメリットがある。AppleもIBMも特別なブランドであり、事業内容は競合しない。
IBMはバックエンド技術に大規模な投資を行っている。Appleは第一級のモバイルフロントエンドを所有する。Appleの「iOS」開発者ベースと企業分野への影響を考えると、IBMにとってのリスクは小さい。IBMがそれをうまく活用できないとしたら、それは同社の責任だ。
Microsoftと違って、Appleはエンタープライズ分野でIBMを打ち負かすことに興味はない。AppleとIBMの関係が緊張することはあるだろうが、それでも90年代前半のMicrosoftとの戦争のような状態になることはないだろう。
企業が気まぐれな消費者ではないということも、Appleにとって非常に大きな利点だ。企業はおもちゃではなく、生産性に投資する。ひとたびシステムがうまく機能するようになれば、何年間も使い続けてくれる。
それは長期にわたって安定した売り上げを得られるということであり、「Windows」に長らく利益をもたらしてきた企業の囲い込みのようなものだ。企業は消費者と違って次の目玉製品を求めて騒ぐこともない。壊れていないものを直す必要はないのだ。
革新のペース
この最後のポイントは重要である。わずか10年の間に「iPod」とiPhone、そして「iPad」を生み出したAppleの魔法のような10年間は、もう二度と来ないからだ。Appleはモバイルの波をとらえて鮮やかに乗った。その一方で、競合他社は利益の少ないWintelマシン戦争を戦っていた。現在の「Android」陣営の企業も同じような状況に置かれている。
さすがのAppleも、もう一度、3つのヒット商品を立て続けに開発することは難しい。コンピュータ分野の大規模な革新は、ほぼ10年に1回のペースで起こる。50年代のメインフレーム、60年代のミニコンピュータ、70年代のマイクロプロセッサ、80年代のPC、90年代のノートPC、00年代のスマートフォン。このトレンドは偶然ではない。
もしAppleがウェアラブルテクノロジをヒット商品にする方法を2010年代に思いついたら、何年にもわたってそれが標準になるだろう。現行製品に少しずつ機能強化が施されていくことはあるだろうが、iPhoneのような画期的な新製品はないはずだ。
結論
Appleの今後10年間の課題は、Microsoftがこの25年間Windowsで享受してきたような揺るぎない地位をエンタープライズ分野で築き上げることだ。80年代にIBMと提携したことで、Microsoftがそれを成し遂げたように、今回IBMと提携したAppleもそれを成し遂げるだろう。
Steve Jobs氏は種をまいた。Tim Cook氏の役割は今後10年間が豊作になるよう取り計らうことだ。
ソニーはこれをほとんど成し遂げられなかった(Trinitronテレビは大きな例外だ)。遺産を永遠に受け継いでいくために、Appleはまさにこれを成し遂げなければならない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。