デジタルバリューシフトとは
「デジタルテクノロジは企業の価値そのものを変える」――それが本連載全体を通じての基本的なコンセプトであり、この現象を「デジタルバリューシフト」と定義する。デジタルテクノロジを効果的に取り入れ、自社の価値を変え続ける敏捷性(アジリティ)を持つ企業が競争に勝ち残っていくだろう。
連載第1回の本稿では総論として第2回以降で取り上げる予定の各テーマについてダイジェスト的に取り上げていく。具体的には、デジタルバリューシフトの典型例であるワークスタイル変革に触れ、来るIoTの時代のデジタルバリューシフトを予測し、それらのけん引役となるIT部門のあり方についての概論を述べたい。
ワークスタイル変革は企業の価値を変える
「ワークスタイル変革」は昨今のトレンドワードの1つだが、ワークスタイルを変えようという動きは最近急に始まったことではない。多くの企業がその必要を感じているものだ。(図1参照)

図1:ワークスタイル変革に対する各社の取組み状況
ではなぜ今「ワークスタイル変革」なのか。ワークスタイル変革は本質的には経営改革そのものであり、さまざまな理由が推察されるが、大きな理由の1つは“コンシューマライゼーション”のの進行であろう。簡単に言えば、ライフスタイルがこれだけ変わったのだから、ワークスタイルも大きく変えられるはずという個人の期待が大きくふくらんでいるのだ。
一方、多くの企業の現実はどうだろうか。ガバナンスやセキュリティ条項などを理由に「持ち歩けない」ノートPCが支給され、メールを1通送るのに何重もの手間がかかったり、カメラが使えなかったりなど、使い勝手が悪いスマートデバイスが支給されていないだろうか。
デジタルの本来の価値は情報を容易に取り扱えるようになることであるが、オフィスで1人1台のPCが与えられる時代になってからかなりの時間が経過し、あらゆる情報がデジタル化された昨今でも、情報の取り扱いは適切な状態からはほど遠い。
なぜならば、そこには必ず情報セキュリティの壁があるからだ。情報セキュリティと利便性は相反するものであり、バランスをいかにとるのかが課題となる。そのバランスはどうしても情報セキュリティに偏重したものになりがちだ。
業務情報がびっしり書かれた手帳と、HDDが暗号化されたノートPCがあった場合、紛失して大問題になるのはなぜか後者の方である。
しかし、多くの個人が期待するとおり、昨今のデジタルテクノロジを駆使すればワークスタイルは劇的に変えられる。そして、会社のルールや業務環境に不満を持ち、デジタルのもつ魅力に敗れたものたちがいわゆる「シャドーIT」という行動に走ってしまうのである。
もし企業が従業員目線のワークスタイル変革を推進し、各従業員の働き方を大きく変えることができれば、その集合体である企業の価値が変わることは自明だ。本連載では複数回にわたって2014年に合致したワークスタイル変革の進め方について紹介していく予定である。