『下流社会』。小泉純一郎首相とブッシュ米大統領(いずれも当時)の時代だったことが分かる
2005年9月に発売され、80万部を販売したベストセラーとして知られた書籍が『下流社会』だ。高度成長期、「一億総中流」という、思えば言葉自体に矛盾をはらんだ表現で語られた日本人の意識が次第に変化し、上中下の格差が広がってきているとの指摘が増えてきていた時期だった。
日本が「中流社会」から「下流社会」に向かうと指摘し、著者の三浦展(みうらあつし)氏は「下流社会」という自らの造語で表現した。雰囲気をつかむために、書籍の中にあった「あなたは下流か?」という項目を紹介する。
次のリストのうち、「半分以上当てはまるものがあれば、あなたはかなり“下流的”」とする。
- 年収が年齢の10倍未満だ
- その日その日を気楽に生きたいと思う
- 自分らしく生きるのが良いと思う
- 好きなことだけして生きたい
- 面倒くさがり、だらしない、出不精
- 一人でいるのが好きだ
- 地味で目立たない性格だ
- ファッションは自分流である
- 食べることが面倒くさいと思うことがある
- お菓子やファーストフードをよく食べる
- 一日中家でテレビゲームやインターネットをして過ごすことがよくある
- 未婚である(男性で33歳以上、女性で30歳以上の方)
出版から10年を振り返る
来年で出版から10年になる同書について三浦展氏は「(書いた内容が現実になり)すっかり定着した」と自信を見せる。格差という意味で「マセラティの販売台数が堅調に伸びているなど、上流は上流で増えている」という。
現在は執筆に力を入れている三浦氏。9月に2冊の本を出す予定という
また、ユニクロなどで進んでいる正社員化の動き、東京大学における低所得家庭の向けの学費無償化など、本の中で指摘したかなりの事柄が現実化したとのことだ。
三浦氏の分析を支えるのが、綿密な調査だという。9月3日に発表された「住みたい街ランキング」で、1位吉祥寺、2位恵比寿は変わらなかったが、3位に前年13位だった池袋が入ったことがメディアでも話題になった。
こうした調査についても「吉祥寺に1回行ったことがある人、100回の人、行ったことのない人がおり、どんな層に調査したのかが分からないと、プロとしては“怪しい”と考える」という。
マーケターとして調査にこだわる三浦氏が、最近利用しているのがウェブで比較的手軽にアンケートを実施できるツールだという。三浦氏が利用しているのは、マクロミルが展開するセルフアンケートツール「Questant」だ。ウェブやメール、SNSなどに手軽に張り付けて、すばやくアンケートが取れる。
「思いついた仮説をどんどん検証するのに良いツール」と三浦氏。例えば、商店街組合や青年会議所などの民間団体は予算とノウハウがないため、住民の声を聞くアンケートを実施することはあまりないという。低コストで直感的な設問を設計できるのも利点という。
また、公的な調査などでは“商店街の中でどの店が人気があるか”といった結果を公開しにくいため、実際には役に立たないことも多いとのこと。そのあたりを知りたい場合にも、解決策になるとしている。
ただし、アンケートに回答するモニターのリストなどがあるわけではないため、知り合いの知り合いに頼むしかない、謝礼を支払う仕組みがないといった事情で、大規模なアンケートには不向きと指摘した。
マーケティングは後追い
三浦氏は現在の大きな目標について「社会を良くすることをしたい」と話す。だが、それはしばしば、本業でもあるマーケティングの考え方と真逆になるようだ。
「マーケティングは基本的に後追い」(同氏)
マーケティングは、過去のデータを分析して、顧客の好みをつかみ、市場への展開方法を考えるというのが基本的な流れ。だが「○○という製品をいかに売れるようにするかということ自体には、私はまったく興味がない」。
三浦氏がやりたいのはトレンドの予兆をつかむこと。「10年前、“そろそろ(女性の)茶髪ブームは終わります”と化粧品メーカーに伝えたことがあり、それは実現した」という。ただ、直感からくる予兆を、その時点で裏付けるまでの十分なデータをそろえるのはほぼ不可能という。「データで証明するには10年はかかる」と話す。
予兆の把握は、マーケティングとはベクトルが逆になることがあるものの、三浦氏の興味はそこにある。
社会を良くするために役立つトレンドの予兆をとらえたい――三浦氏の今の興味を言葉で表現するとこうなる。そこで、これから起きる社会トレンドの予兆について聞いてみた。