国立情報学研究所(NII)は、ネットワークやソフトウェア、コンテンツなどの情報関連分野における最先端理論、方法論の研究を進め、その研究成果の応用展開までを総合的に推進する機関である。
また同研究所は、研究開発だけでなく、大学などとの連携による、最先端学術情報基盤(Cyber Science Infrastructure:CSI)の整備を推進しており、その一環として、約800の大学にSINET(Science Information NETwork)という学術情報ネットワークを提供し、運用も担っている。さらに、CiNiiという、学術情報検索用のデータベース・サービスを構築し運営主体となっている。
研究機関と学術研究のためのインフラ基盤の運営主体という2つの顔を持つNIIだが、2013年から所長を務める喜連川優氏は、今、始めようとしている新しい研究機関向けサービスについて語った。
国立情報学研究所 所長 喜連川優氏
「約800の大学のパブリッククラウド活用のお手伝いをしようと、現在取り組んでいます。最近は大学や研究機関がクラウドを独自に活用するケースが増えてきました。しかし実際の活用ではご苦労されている大学も多い。そこを何とかわれわれの方でサポートできないかと考えたのです」
大学のクラウドに対するニーズは一律ではない。医療系の研究機関と物理・宇宙科学などで扱うデータは性質も違う。そのため、商用のクラウドサービスの中で一体どういうサービスを選べば一番いいのか、といった選択に関する迷いが生じてきているという。
また、パブリッククラウドは利用する分だけまずは料金を払い、さらに利用度が上がれば追加料金を払うというサービスだ。大学が自前でプライベートクラウドを構築するのとは話が違ってくる。このクラウドシステムの調達に苦慮する大学も多いという。
「そこでSINETをハブにしてクラウドサービスを利用してもらうという形態を構築しています。NIIが効率的に利用するためのテンプレートなどを用意するのです。現在NIIが国内10社のクラウドサービス業者と契約しています。先日、Amazon Web Services(AWS)が11社目として名を連ねました」
さまざまなクラウドサービスのハブとなり、各大学は40Gbpsという高速ネットワークを通じてニーズに合わせたクラウド利用が可能になる。さらに、800大学というユーザーの数は、ボリュームディスカウントの材料としてもかなり有効な数字だ。
「クラウドサービスは、巨大なデータを抱える大学や研究機関にとって、利用価値の高いサービスです。しかし利用するからには誰かが運用管理していかなくてはならない。ハブになるということは、個々の大学のセキュリティや運用の負担を軽減するとともに、各大学で眠っているコンピューターパワーを削減することで、CO2削減などの効果にもつながるわけです」と喜連川氏は語る。
NIIは、学術を進展させるためのIT基盤を作る機関という役割を担っており、各大学、研究機関もそれを期待しているのである。SINETの接続スピードはまもなく100Gbpsになるという。
安定した稼働で、しかも高速のネットワークを介してクラウドが活用できるとなれば、研究開発のスピードの向上が期待できる。NIIはネットワークという“専用道路”を作るだけでなく、サービスも加えることで、日本の学術研究の根幹を支えている。