もちろん、この考え方はある意味正しいのです。システムやソフトウェアの開発において、顧客の要件をしっかり詰め、それを確実に実現していくことは大切なことであり、また、開発プロジェクトのマネジメントという観点から、QCD(Quality=品質、Cost=コスト、Delivery=納期)を守るためにも、不十分な要件定義による手直しを避けたいのは当然のことです。
と同時に、ビジネスニーズの変化への対応も求められているのが、多くの開発者が直面している現状の課題です。それゆえに「アジャイル開発」や「リーンスタートアップ」などが注目を浴びていると言えます。
これらの考え方に共通するのが「サービスライフサイクルアプローチ」です。ITサービスのライフサイクルはウォーターフォール型の一方向ではなく、運用フェーズに入った後でも、改善要望や新たな要望があれば、再び設計を行い、運用フェーズへと移行していくことを表しています。
この考え方の最も重要な点は、「ITサービス」のライフサイクルである、という点です。システムやソフトウェアなどの一つ一つの開発についてのライフサイクルを取り上げているのではなく、「顧客に価値を提供する手段」としての「ITサービス」のライフサイクルを常に意識し、運用フェーズに入った後も、常に何を求められているか、次に何を求められるだろうかと意識しながら、価値を提供しつづけるパートナーシップを確立していくことを目指した考え方です。
特徴3:マネジメント論である
もう一つの特徴は、ITILはマネジメント論をまとめたものである、というポイントです。
多くの企業では、次世代を担うリーダーやマネージャー候補の育成に努力されています。彼らに必要なコンピテンシーの一つとして、マネジメント力とそのための基礎知識が挙げられます。ITILは、設計・開発手法や運用の標準的な手順については記載されていません。ITサービスを価値あるものとして提供し続けるために何をどう管理すればよいか、についてまとめられています。これを学び理解し、現場に取り入れることは、次世代を担う人材の育成に非常に大きなプラスとなるでしょう。

- 最上千佳子(もがみ・ちかこ)
- 日本クイント株式会社代表取締役
- システムエンジニアとしてオープン系システムの提案、設計、構築、運用、利用者教育、社内教育など幅広く経験。顧客へのソリューション提供の中でITサービスマネジメントに目覚め、2008年ITサービスマネジメントやソーシングガバナンスなどの教育とコンサルティングを提供するオランダQuint社(Quint Wellington Redwood)の日本法人 日本クイント株式会社へ入社。ITIL認定講師として受講生・資格取得者を輩出
- 2012年3月、代表取締役に就任し、これまで以上にITとビジネスとの融合に貢献していくことを目指し、講師・コンサルタントとしての活動も続けている
- [主要資格]ITIL Expert認定講師