展望2020年のIT企業

課題先進国、日本にチャンス

田中克己

2015-01-21 07:30

 「課題先進国の日本にチャンスがある」

 IT産業の動向に詳しい野村総合研究所(NRI)の桑津浩太郎ICT・メディア産業コンサルティング部長は、少子高齢化など日本が抱えるさまざまな社会の課題解決に、日本のIT企業が取り組むと予想する。そこから得た成果をグローバル展開できる可能性があるからだろう。

勝ち組みの世代交代

 IT市場のリーダーは大きく変わり、2000年代の勝ち組みだった欧米IT企業が失速しつつある。ハードの高速化や大容量化は負担を増やし、サーバやネットワーク機器、ミドルウエアなどを単体で勝負する時代は終わったということだ。顕著に現れているのが、日本の大手IT企業のお手本だったIBMだろう。

 同社の売り上げは10四半期連続(14年第3四半期)の減収と伸び悩んでいる。Salesforce.comやグーグル、 AWSなど新興IT企業に、顧客企業が使う業務システムの一部を取られていることにある。

 桑津氏は「虫食いされており、変革せざるを得ない」と分析する。IBMが2014年の米Appleとの提携や半導体事業の売却は、従来モデルが崩れつつある証に思える。クラウド事業者であるSoftlayerの買収や、認識型コンピュータ「Watson」に賭けるのは、構造変革への挑戦と言える。

 一方、日本のIT企業は、構造変革に手間取っている。日本語という壁と国内に旺盛なIT需要があったので、国内だけで収益を確保できたからだ。だが、10年ほど前から日本のIT市場規模はじわじわと小さくなっている。かつて世界のIT需要の約15%を占めていた日本市場は今、10%を割り込む。いずれ5%、3%に落ち込む市場に固執することは、事業の縮小を意味する。淘汰される可能性もある。

 グローバル展開に出遅れた日本のIT企業は、どう戦うのだろう。IT活用の変遷をいち早くつかむことだろう。1つは個別企業の業務システムから事業構造の変化で、インターネットを駆使した証券や生保、旅行代理店などが次々に誕生したのは記憶に新しい。

 AppleのiTunesによって、楽曲の販売がCDからダウンロード配信になり、さらにストリーミング配信へと進化している。書籍など出版の電子化も急速に進み、「2020年には、電子出版が主に、紙がサブになる」(桑津氏)。デジタル化は多くの産業に構造変革を迫り、世代交代を促すだろう。

 次の変革は、エネルギ-や農業、食糧、医療、自動車、住宅など社会インフラになる。「これらの課題解決に、日本の突破口がある」と桑津氏は予想する。期待されるのが、IoT(モノのインターネット)M2Mといった言語に依存しないIT活用である。例えば、国民の健康管理に使う。通信機能付きの体重計、血圧計などからデータを収集し、Aさんに「太りすぎているので、食生活を改善してください」と勧める。

 ここでは、業務システムのようにITだけで課題を解決できるわけではない。健康管理の場合、「個人にとって、面白いことではないだろう」(桑津氏)。ITを使うのは、増加の一途を辿る医療費の抑制する国民の義務になる。社会貢献の意識が大切になる。

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