テクマトリックスの「CRM Forum」が催されるのは今年の「CRM Forum 2015」で9回目。そのCRM Forum 2015では、協賛23社による後援と出展のもと基調講演や事例セッションを含む計30のセッションが終日繰り広げられ、事例セッションスピーカーとして相模原市や日本コカ・コーラ、楽天証券が名を連ねた。
開幕の挨拶に登壇したテクマトリックス代表取締役社長の由利孝氏によれば、同イベントの事前登録者数も5000人を超え、過去最高を記録。当日の会場にも多数の来場者が押し寄せ、セミナー会場と展示会場はともに熱気に包まれた。
ピンチをチャンスに変えるのが日本の力
そんな熱気の中で自民党元総裁であり、第87~89代の3期にわたって内閣総理大臣を務めた小泉純一郎氏が特別講演の演壇に立った。講演の内容は、現在のライフワークとも言える「原発ゼロの国づくり」だ。
小泉氏は「総理大臣の頃からITに疎く、この場でITの話ができなくて申し訳ない」と前置きした上で日本における「原発ゼロ」の必要性を強く訴え始めた。同氏が言う。
「原発推進論者たちは、先の東日本大震災による原発事故(福島第一原子力発電所事故)であれほど痛い目を見ておきながら、いまだに『原発は安全でクリーン、低コスト』と言い張る。正直、総理大臣の頃は私もそう信じていた。ところが、福島原発の事故発生後、よくよく調べてみると原発推進論者たちの言っていることがすべて“ウソ”だと分かった。かつては一国の首相として原発を推進していたが、その重大な過ちの責任を取る意味でも、原発ゼロ国家の創生を目指していきたい」
小泉氏が今回指摘した「日本で原発を稼働させることの問題点」は、国土の狭さや大規模自然災害リスクなどと数多い。なかでも、印象に残ったのが核廃棄物を巡る問題だ。「現政府の必死の努力もむなしく、日本では核廃棄物の最終処分場が1つもできていない。このような状態で原発を稼働させていいわけがない」と小泉氏は語気を強め、こうも続ける。
「例えば、フィンランドでは、国土を支える巨大な岩盤の地下400mのところに広さ2km四方の核最終処分施設(オンカロ)を作っていて、そこに核廃棄物を“10万年”間保管するらしい。岩盤をくり抜いて作ったオンカロなら核廃棄物を10万年置いておけるかもしれない。だが、地下水脈が縦横に走り、かつ地震の多い日本の場合、10万年もの間、核廃棄物を安全に保管できる地下施設を作るのは至難。作るための費用も計り知れず、他国の処分場もあてにはできない」
小泉氏によれば、フィンランドのオンカロでも原発4基分の廃棄物しか収納できず、他国からの核廃棄物の受け入れも禁じられているという。そのオンカロでは、壁面がうっすらとした湿気を帯びており、数千年後、数万年後に湿気が水流を成し、廃棄物や施設に悪影響を及ぼす懸念があると説明する。「地盤が岩盤でできているフィンランドですらこうなのだ。これが日本だったらどうなるか。言うまでもなく、400mも地面を掘れば、水がどんどん溢れ出だし、湿気どころの話ではなくなるのは目に見えている」と小泉氏は説く。
とはいえ、脱原発には、原発に依存してきた自治体の経済的窮乏はもとより、電気料金の値上がり、それによる経済への悪影響といったリスクがある。原発を中心に形成されてきた巨大なエコシステムも崩壊する。そのため、原発ゼロは「非現実的」、あるいは「無責任な楽観論」との批判を良く受けるという。ただし、そうした見方を小泉氏は真っ向から否定し、次のように話す。
「繰り返すようだが、原発は決して低コストではない。地域住民や施設の安全対策費や自治体への原発交付金、そして、核廃棄物を処理するためのコストを含めて考えれば、原発の稼働、維持コストは相当額に上る。しかも、今の金融機関の中で高リスクな原発に融資をしようというところは1つもなく、結局はすべてのコストを電力消費者である国民が負担することになる。だとれば、原発の推進から撤廃へと政策の舵を切り、原発に費やす資金を再生可能エネルギー産業や地方経済の育成に注ぎ込むのが国としては正しい選択だし、夢のある未来が描ける」
そして小泉氏はこう訴え、話を締めくくる。
「脱原発は、資源の乏しい日本にとっては大変な道のりかもしれない。だが、どんなピンチもチャンスに変えられるのが日本人だ。これまでも幾多の苦難を乗り越え、苦難を成長や発展の糧にしてきた。原発ゼロも必ず達成できる」