ITの発展を背景に、リテール金融分野で革新的なサービスが登場している。スマートフォン、「Siri」のような自然言語認識、ウェアラブルなど、非金融サービスの体験を通じて、顧客の期待が進化し、顧客行動の変化が始まっている。その結果、リテール金融ビジネスの差別化源泉が、預貸・決済等の伝統的な金融商品から、ITを駆使した付加サービスへとシフトしていくだろう。
参入する異業種のビジネスモデルは、革新的サービスを武器に金融機関の顧客接点を奪い、または中抜きし、金融機関の事業領域を規制で保護された預貸、決済などに押し込めてしまうものだ。しかし海外では、金融機関自身がこうしたイノベーションの主役を担っている。異業種に対抗するために、あるいは金融機関のミッションとして、複数金融機関が連携して革新的サービスの共通プラットフォームを開発し、中にはITプラットフォーム事業として収益化している例もある。
先進ITの普及において、日本は欧米よりも遅れている。本邦の金融機関においては、現時点ではサービス革新への積極姿勢はあまり感じられない。しかし顧客の行動変化のスピードは速く、リテール金融へのインパクトは大きい。また、これらに対応するためのIT組織能力は、レガシーのシステム開発のそれとは異なり、ノウハウ獲得には時間を要する。常にアンテナを張り、来るべき変化への準備を怠らないことが重要だ。
先進ITのリテール金融へのインパクト
先進ITによるサービス革新が、金融機関の顧客接点を与える影響は大きい。例えば、インターネットバンキングが始まってから10年の変化よりも、スマートフォンが出てから5年に起きた顧客行動変化の方がはるかに大きい。
金融機関と顧客との接触機会は、店舗では年に3~5回、PCバンキングで月に2~3回程度である。しかし、モバイルでは日に1~2回と、店舗の200倍も接点があるという調査結果が出ている。ビジネスモデルは従前と同様でも、スマートフォンのインターフェースが加わっただけで、顧客の利用プロセスが革新され、顧客行動様式が大きく変わってしまうのだ。