日本の金融機関への提言
日本の金融機関は、これらのイノベーションに対する積極姿勢は、現時点ではあまり感じられない。積極的になれない1つの理由は、コストはかかるが増収が見込めない取り組みだからではないだろうか。サービス競争の結果がもたらすのは、おそらくは無料化、競争条件の底上げ、ITコスト増であり、儲かるのはITベンダーというのがこれまでの歴史である。
確かに金融機関にとってはジレンマではあるが、先陣を切って取り組み、自らがITプラットフォーム事業を運営して収益化している例もある。出遅れて異業種に顧客接点を奪われ、収益機会を逸するよりも、自らがサービス競争の主導権を握る方が、長い目で見れば得策ではないだろうか。
また、先進ITを使ったサービス開発は、レガシーITの開発や保守とは全く業容が異なり、システム部門に指示すれば一朝一夕で何とかなるというものではない。買収や提携も視野に、新たなIT組織能力を確立する必要がある。イノベーション推進には外部の知恵を活かし、試行錯誤を繰り返す組織体制や企業文化も培わなければならない。この点においても、先陣を切るプレーヤーに一日の長がある。
現時点では、異業種よりも金融機関に優位性がある。情報セキュリティにおける信頼あるブランド力、対人・店舗との融合、既存口座や決済インフラとの連動は、金融機関の強みになる。金融機関のIT課題は、どうしても目先の制度対応、レガシーのコスト削減に傾注しがちであるが、リテール金融サービスのイノベーションにも同時並行で取り組むことが期待される。一足飛びにはいかないので、例えば次のように段階的に取り組んではどうだろうか。
- 短期的課題
- IT動向をウォッチして緊急度を知る
- 自社とITパートナーの対応力を評価する
- 中期的課題
- 他金融機関やIT事業者との連携の可能性を探る
- 革新的サービスを何か一つ始める
- 長期的課題
- サービス革新に必要な組織能力を確立する
- イノベーションを維持、継続する
近い将来には、新たな革新的ビジネスモデルが、日本の金融機関から世界に発信されることを期待したい。
出所
- *1 netbanker April 21, 2008
- *2 American Banker April 3, 2013
- *3 CNN Money December 2, 2010
- *4 American Banker February 8, 2015
- 各社ホームページ(mint, Bank of America, Payment Council, VACALINK, Paym, Zapp, Isabel, BBVA)