ベトナムに安い人件費のみを求める時代は終わり?
確かにダナンはハノイやホーチミンと比べると法定賃金の指定レベルも低いため、エンジニアの給与水準も比較的低いと言っても良いでしょう。ただ、これまで見てきたような人材の奪い合いや、良好なオフィス環境の数不足といった現状を踏まえると、拠点開設とその維持にはやはりある程度の手間とコストがかかるのが現状です。
ダナンでの各種コストがハノイやホーチミンのレベルを超えることは想像しにくいですが、これらのレベルに近づくにはさほど時間はかからないことでしょう。そうなってしまった場合、次に日系企業が取る戦略はどうなるのでしょうか。
ハノイやホーチミンからダナンに拠点を移してきたように、ベトナム国内の他の政府直轄都市にさらに移動しようとしても、もはや容易ではありません。ハイフォンはダナン以上に大きな港湾都市であり、都市としても長年開発されてきています。しかも、日系を含む工業団地の開発も非常に進んでいるのでダナンと比較してコストメリットはありません。また、ダナン大学に相当する核となるような国立大学が存在しません。
カントーには、IT学部を擁する国立のカントー大学があるため、ダナン大学のような役割を期待することもできますが、あくまでもこの地方および大学のメインターゲットは農業です。しかも、カントーの近くにはホーチミンという巨大都市が存在するため、どうしても優秀な人材の多くはホーチミンに流れてしまいます。ということは、ダナンでの賃金が高騰した場合、コスト計算を前面に出すと最悪のケースではベトナムから他国へ開発拠点を移すということにもなりかねません。
ちょうど今、中国からベトナムへ製造拠点を移管する流れができつつあるのと同じように、近い将来、ベトナムからミャンマーなどの他国への開発拠点への移管を進めるということも現実味を帯びてきます。
ベトナムは、国家としてIT産業を外国から受け入れることに積極的ですが、まだまだ下流工程の開発が中心であることは前回、前々回でもご紹介した通りです。ベトナム人技術者の「技術だけを知っていれば良い」「この会社に飽きたら転職してまた技術を学べば良い」というような、その場しのぎの思考を改革するよう働きかけていくとともに、「手数のかかるところを安くできれば良い」と短期的なコスト面を強く考えてしまいがちなわれわれ日本人も意識改革をしていく必要もあるのかもしれません。
むしろ、「より高度なオフショア開発は、多少賃金が高くなるものの経験豊富な人材がいるハノイやホーチミンで」、「比較的人手がかかる業務は、賃金を抑えるためにダナンで」というような、ベトナム国内での戦略的なパートナー構築もあり得るかもしれません。
ただ、このような問題提起はすでに10年前からなされています。一朝一夕に意識改革が進むものではありませんが、ダナンがベトナムにおける最後の拠点都市となる可能性があることも十分留意しておく必要があります。

- 古川 浩規
- インフォクラスター
- 内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事