サイバー攻撃がイノベーションを阻む
鵜飼社長は、サイバー攻撃がイノベーションを妨げる要因になることも懸念している。あらゆるものがインターネットにつながるIoT時代になると、いろんな脅威が出てくるだろう。「その対策を怠れば、イノベーションが進まなくなる」(同)。日本がIoTでイニシアティブをとるうえで、セキュリティ技術の研究開発は欠かせないことでもある。
FFRIは、公共機関や企業、個人に効果のある対策を説いていく計画もある。例えば、インターネットバンキングの不正送金被害が14年に約30億円に達した(警察庁調べ)。なのに、「ウイルス対策ソフトが入っているので、93%の人が安心」と思っている。こうした人たちが犯罪の増加で、「気持ちが悪い」との理由からインターネットバンキングをやめるとなったら、どんなことになるだろう。「安心がボトルネックになったIT離れの兆候はすでに現れている」(同)。
鵜飼社長は「ウイルス対策ソフトのパラダイムシフトが起きる。その中心的な役割を果たす」と意気込む。「日本の技術者には、高い技術力がある。コンピュータサイエンスをしっかり学んできた人材なら、サイバーセキュリティの研究開発に参画できる」と、自身の米ベンチャーでの経験から確信している。
「当社にとって、重要なことは当社の認知度を高めること。そのためには、セキュリティ対策の現状を知ってもらう。これが大きく変わっていく始まりになる」(同)。1本8500円の個人向けウイルス対策ソフトの販売を始めたのは、そのためでもある。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。