国が考えるデータセンター地方分散化のメリットと課題(後編)

吉澤亨史 怒賀新也 (編集部) 2015年07月31日 12時07分

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 ITの世界ではクラウド活用が一般的になりつつあるのに対し、日本のデータセンターは首都圏、特に東京に一極集中しているのが現状だ。クラウドでは海外のデータセンターを知らずに利用している現状に対して、あきらかにコストの高い首都圏に集中していることはどのような背景で、どのように変化するのか、興味のわくところである。

 官公庁などを対象にしたITコンサルティングを手掛けるNCRIの会長で、ネットコンピューティングアライアンス(NCA)の代表である津田邦和氏は、この「データセンターの地方分散化」というテーマに強い関心を持ち、多くの有識者との議論を展開している。

 前編では、データセンターにあるリソースの管理が、メインフレーム時代とは異なり、ほぼすべての場面で遠隔から実施できるため、地方に拠点があっても大きな不都合はないのではないかという議論を展開した。一方で、太い通信環境を引き込むためには、敷設するキャリアにとっての収益性が求められること、距離によるレイテンシなどの問題があるといった事情も分かった。

 後編となる本稿では、キャリアにとってのデータセンター向け通信施設の開設などについて、さらに深掘りして議論する。(文中敬称略)

NCRI 会長兼代表 津田邦和氏。クラウドやデータセンターに関して、国や自治体にさまざまな助言をするなど影響力を持つ。
NCRI 会長兼代表 津田邦和氏。クラウドやデータセンターに関して、国や自治体にさまざまな助言をするなど影響力を持つ。

津田 政府もデータセンターの地方分散化は1つの意義があるとされたわけですね。集中化はリスクがあって、社会的な問題でもある。であれば、技術的にも問題が少なくてコスト的にも優位だったら、本当は地方分散化が自然に進むはずなんです。

 民間企業も、首都圏の集中したデータセンターに置いておくだけだとリスクが大きいことは分かっているはずであり、東京はコストが高く、それにネットワーク上で使えるところがあれば、つまり太い回線が行っているところであれば分散化した方がいいと思うはずなのです。地方の方が土地代も人件費も安い。どれを考えても、市場原理によって自然と地方への分散が進む状況があるのです。

 しかし、おそらく経産省も私たちも、そんなに早く進んではいないと感じています。しかも、場所を選ばない仮想化基盤や、米国にあってもいいようなものが、実は東京にあるんです。そう考えていくと、データセンターの地方分散化には、よく知られていることとは違う課題があるような気がします。

 それを議論したいのですが、仮説としてどのようなことを柳田さんは感じていますか?

柳田 まず、経済産業省としてデータセンターは地方分散すべきだという結論にまでは至っていません。これまでの調査でも、結論が行ったり来たりしているんです。例えば、データセンターの事業者にとっては、まだ首都圏の方が事業リスクが低いというところもあります。ただ、わたしの思うところは、なかなか地方に進まない原因の1つは、ネットワークの問題があると思うんです。

経済産業省 情報処理振興課 柳田大介氏
経済産業省 情報処理振興課 柳田大介氏

 これは「光の道政策」に代表されるように、国策としてブロードバンドネットワークを広げてIT基盤を作るということも過去にやっていました。これについてはある一定の成果をもって国としてタッチするのは一区切りだという結論を出しています。逆にそれ以上の、国の隅々まで太い回線を引けということを、国側から通信キャリアに働きかけるのは、彼らにとっての事業リスクを高めることになりますので、無理強いはできない。それは総務省も同様のスタンスであると伺っています。

 また、データセンターだけでなく、IT人材も多くが東京圏に偏ってしまっています。データセンターを運用するにはそれなりに高度な人材が必要になるため、地方に最先端のテクノロジを理解している人材が少ないというのも、1つ懸案になるかと思います。あとはユーザー自身の理解、リテラシの部分もあると思います。ベンダーなり国なりが、いろいろな選択肢があることを示して競争力を上げていこうという流れを作れればよかったのですが、それができていないというのもあると考えています。

津田 なるほど。わたしたちもいろいろなキャリアと話をしていますが、データセンターを個別に建設されても、キャリアが単発でそこに太い回線を引くのでは、スケールメリットを得られないという話がありました。もしやるのであれば、誰かが旗を振り、一個所に5個なり10個なりデータセンターを作るようにすれば、キャリアは参加を表明するはずです。

 そうすれば顧客が来ます。民間企業ですから、そこに太い回線を引いて収益を上げるのは事業であるため、やぶさかではない。でも、ある地域のある場所にデータセンターを1つだけ作るから回線を引けと言うのは、事業としての魅力が少ないんですね。キャリアのネットワーク敷設は規模の原理です。1つのデータセンターが使うネットワークは巨大ですし、それが複数集まってくれれば十分にビジネスとして成り立つわけです。

 どうも昔の工業団地のように、水道、ガス、交通、弁当屋さんも含めて集積化しないと効率が上がらないんですね。データセンターバレーというか、データセンター工業団地というか、そういう動きが過去になかったんです。実は、キャリア側は薄々希望している。そういう仮説があるので、調査してみたい。本当はどうなのかということは重要であると思います。それについてはいかがですか?

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