Fintechベンチャーのジャンル
話をFintechの定義に戻すと、表1右側で挙げた例のように、現在、大型化しているベンチャーの着眼点は実に多様である。中には、そもそも自らをFintechベンチャーと位置づけていないプレーヤーもいるため、その分類もやや難解なものとなる。そこで、元々バンドルされていた領域から、やや大枠での区分と、代表的なプレーヤーを羅列したものが下図となる。

図1:Fintechの主な領域分布と海外プレーヤー
これらの中でも主だったものを紹介すると
- 貸付ビジネス:従来銀行が主に行っていた、お金の出し手と借り手をマッチングする領域
- PFM・会計ソフト:家計や企業のデータの可視化・手続きの短縮を促進する領域
- 資産運用:従来は大規模な専門的資産運用会社が担っていた資産運用サービスを簡素化し、人工知能で運用を補う領域
- 決済:スマートフォンやECサイトを経由して、少額の決済・送金をより効率的に行うことを意図する領域
- 銀行インフラ系:銀行業に向けて、特にユーザーインターフェースを中心に新たな顧客満足を提供できるシステム提供を行う領域
- 要素技術:ブロックチェーンや独自のセキュリティ技術を活かして、これまでのデータの保存や保護に向けて新たなあり方を提供する領域
といったものがある。
これらは、それぞれにおいて新たな情報の切り口やマーケティングの観点、といった所から、新たな金融機能を提供しているプレーヤーであるが、次に述べるような、スマートフォンの浸透や、ユーザーの貪欲な情報収集志向の高まりといった背景の中で、より早く成長し、産業のあり方に影響を与えるようになってきている。
Fintechをとりまく歴史的な背景
Fintechは、ベンチャー産業に専売特許がある領域ではなく、大規模金融機関が過去数十年間の間、本業として大規模のIT投資を行ってきた領域である。銀行業を例に取れば、古くは全国的な決済システムの稼働やATMの普及から、1990年代後半にはインターネットバンキングの開始、近年はスマートフォンアプリへの対応といった形で、本業面でも従来のチャネルやサービス機能を変容させてきた。
一方で、二つの大きなトレンドが、ベンチャー企業にとってのFintechサービス供給に向けた道筋を拓きつつある。
1つ目のトレンドは、消費者が「検索」によって、従来と比べて大きな交渉力を手にしたことがある。インターネットの真の力ともいえる、品質や価格の情報へのアクセスが、スマートフォンによって広く浸透する中、平たくいえば消費者が「情報強者」となり、自らの役に立つサービスを貪欲に求めるようになったことがある。
もう一つのトレンドは、サービス開発コストの劇的な低下である。既に言い古されてきたことであるが、新規のITサービスの開発にかかるコストは、パブリッククラウドやサーバの価格低下のみならずアプリプラットフォームの利用や、開発言語のライブラリ、周辺技術のAPI利用など、ありとあらゆる面で低下した。その結果として「一つのアイデア」を世に問い、スケールすることにかかるコストは劇的に低下した。
これらの2つのトレンドが合わさり、より消費者の役に立ち、支持を得ることができるサービスを提供するために、多数の参入者が争う構図が生まれやすくなった。多くの産業で実現してきたこの構図が、金融サービスにおいても始まったことで、既存企業に比べてベンチャーが、重要なプレーヤーとして台頭してきた形となる。