「情報通信白書」に見る情報通信政策の過去、現在(3) --ICTによる雇用への影響 - (page 2)

田島逸郎

2015-10-28 07:30

 ICTの雇用への影響については、一般に定型的な業務が代替されうる一方で、企業の成長や新規事業が雇用を生み、結果として賃金、安定性、やりがいなど雇用の質が向上すると言える。雇用データの分析では、まずICTによる雇用代替効果が挙げられる。定型的な事務や製造などの職種がICTで代替される傾向にあり、例えば不動産業では事務従事者が減り販売、サービス従事者が増えるといった配分の変化が起こっている。雇用創出については、ICT進展度の高いグループで既存事業、新規事業がともに雇用の増加に寄与している。地方でも、その傾向は変わらないが、ICTの進展度合いが低いため影響は少ない。また、地方での活用が期待されるテレワーク、サテライトオフィス、クラウドソーシングなどの利用も少ない。


ICTが雇用に与える影響 出典:「平成27年版情報通信白書」(総務省)

地域別のテレワーク、サテライトオフィス、クラウドソーシングの利用率 出典:「平成27年版情報通信白書」(総務省)

 他にも、さまざまな形で地方でのICTが活用されている。国内、海外問わず観光での「交流人口」を増やすことが注目されており、その手段としてICTは幅広く利用されつつある。北海道テレビでは北海道のPR番組をアジア各国で放送し、台湾からの観光客を15年で5万人から46万人に増やしており、新番組も始まっている。福岡市では外国人観光客が「旅行中に困ったこと」第1位に挙げる無料Wi-Fiの整備により、利用状況の把握やアプリによる観光情報の提供も行っている。岩手県ではGoogleのNiantic Labsによる位置情報ゲーム「Ingress」で地域活性化を狙っている。陣取りゲームの元となる「ポータル」をプレイヤーが登録できるため、候補となるような名所旧跡を発見する街歩きイベントを行った。

 地方公共団体でのICTの活用の近年(2014年度)の動向については、全体を概観すると防災、教育、防犯でのICTの活用が多く、観光分野が大きな増加傾向にある。地域別では首都圏で全体的に活用の割合が多いものの、医療・介護、農林水産で首都圏以外の方が多い。人口規模では、ほぼ全分野で規模の大きな自治体の方が活用の割合が多い傾向にある。活用に向けての課題については、コストの問題が最も多く、活用人材やリーダー人材など人材不足、費用対効果の不明確さなどが特に多く挙げられた。

 個別の活用については、医療・介護分野では電子カルテ連携が伸びているほか、コ・メディカル地域情報連携の実施予定が増加しており、導入後に一定の成果を上げている自治体も8割を超えた。

 福祉分野においては、電子母子手帳の実施予定が増加しており、成果についても全体としては8割以上が成果が出ていると回答している。

 教育分野では、電子黒板・デジタル教科書やデジタルアーカイブ・デジタルミュージアムなどの利用が多く、成果も大きく上がっている。他には、観光分野での有力サイトを利用した情報提供、交通分野におけるオンデマンド交通などが増加している。

 近年注目されている分野では、マイナンバーについては関心は非常に高いものの実際に活用を検討している割合は少なかった。情報連携基盤の導入についてはマイナンバーの導入に応じての導入意向が36.3%と多い。

 ビッグデータについても積極的に活用している自治体は1割程度であるものの、7割程度の自治体が関心を持っている。特に防災、観光分野での活用意向が多い。地理情報システム(GIS)については、税務、道路などの既に広く利用されている分野で活用がさらに増加している。ここでも防災、観光分野での活用意向が多い。

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