本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、NECの遠藤信博 代表取締役執行役員社長と、アクセンチュアの馬場昭文 執行役員の発言を紹介する。
「知識から知性の領域に近づくAIの実現を目指したい」 (NEC遠藤信博 代表取締役執行役員社長)

NECの遠藤信博代表取締役執行役員社長
NECの遠藤信博社長は先ごろ、同社が開催したプライベートイベント「C&Cフォーラム&iEXPO2015」で基調講演を行った。冒頭の発言はその講演の中で、AI(人工知能)に対する同社の取り組み姿勢を語ったものである。
遠藤氏はAIの発展段階について、図1を示しながら次のように説明した。
「多種多様な“データ”をたくさん集めて分類すると“情報”になる。その情報を分析すれば“知識”になる。知識においては情報のさまざまな因果関係を見出すことができる。それによって、これまで分からなかったことが分かるようになってくる。この知識を活用することがAIの最初の段階であり、機械学習の技術などによって今まさにそれが実現できるようになってきている」

データサイエンスの進化と「知」の高次化
このデータから情報、そして知識へと発展する例え話として、同氏は「自動車のワイパー」を挙げた。
「ワイパーの動作からデータを取るとすると、スイッチのオンオフと動作速度の2つの要素がある。ただし、これらのデータをたくさん集めても情報として何の価値もない。ところが、これに時間や場所の情報を掛け合わせると、いつどこでどれくらい強い雨が降っていて、その雨がどのように移動しているが分かるようになる。それをリアルタイムに情報処理できれば、これまで予測しづらかった突然の局所的なゲリラ豪雨に対処できるようになる。これはまさしく情報が知識レベルに発展したことを物語っている」
そして、遠藤氏はこう続けた。
「知識に対応するところまで発展してきたAIを、最終的には“知性”の領域に近づけていきたい。ただし、知性は人間特有のもので、知識を向上させるだけでなく倫理観も必要なことから、AIが知性を持つまでにはまだまだ高いハードルがある。そこで、知識の分析力を磨くことで予測の確度を高め、人間がさまざまな判断を行う際に的確な知識を提示できるようにしていきたい。それがひいては、知性の領域に近づくAIの実現につながると、私たちは考えている」
冒頭の発言はこのコメントのエッセンスである。ちなみにNECでは、データから知性に至る発展段階と、「見える化」「分析」「制御・誘導」といった機能の進展を縦横軸に取ったグラフにおいて、図2に示したようなAI関連技術を保持しており、その多くが世界でトップあるいは唯一の技術レベルにあるとしている。

NECの社会価値創造とAI技術の方向性