ウェブサイト、広報関連から取りかかる
組織によっては、まず自社・自組織のウェブサイトの改善が真っ先にやるべき課題かもしれない。情報の受け手(ユーザー、顧客)と送り手(自組織)とのやりとりが、製品やサービスを介するよりも直接的な場であるので、ユーザーが知りたいことと送り手が伝えたいこととの食い違いがないかなど、UXを考えるには分かりやすい対象である。
ユーザー側から見ると、組織のウェブページはその組織がUXをきちんと理解しているか、それとも「見た目や動きがすてきっぽいデザイン」としか思っていないかを判断し、感じ取る格好の材料となる。
そして、大きな粒度のUXは製品やサービスを利用する前、それらに関する情報にユーザーが触れるところから考慮し得るものであるから、その入口の1つとなる組織のウェブページも疎かにできないポイントである。
そうした意識を周囲の人々に持ってもらうためにも、ウェブサイトやその他の広報関連媒体はUXの考え方を最初に持ち込む対象として良い選択肢であろう。
社内システムをどう考えるか
手間や効果が見えるようになるまでの時間などを考えると真っ先に取り掛かるには適切ではないであろうし、まだそうした事例はほとんどないと思われるが、「社内システムをUI/UXを考慮して改善する」というチャレンジも提案したい。
「社内システムが使いづらい」というのは(特に大きめの組織になるほど)かなり普遍的に存在する不満であろう。
紙の書類でやりとりしていたものをほぼそのままコンピュータ上に移してきたなど、さまざまな過去の経緯やしがらみがあったり、早期にシステム運用を開始して、なるべく止めないことが優先だったり、組織外の人々の目に触れる機会が少なかったりすることなどから、こうしたシステムは「使いやすさ」などが考慮されにくい。
ましてや、社内システムでUXを考慮するというのはほとんど発想されたことすらないであろう。しかし、日常的に広く使われる社内システムの使いやすさ、分かりやすさ、間違えにくさなどが向上すれば、その効果は実はとても大きい。
直接の数字では見えづらいかもしれないが、業務全体のコストが大きく削減され得るのである。その効果も含め、総合的にUXも向上すれば「働きやすさ」などにもつながるかもしれない。そして、自分たちや身近にいる人々が「ユーザー」であるので、ある意味最もよいUI/UXデザインの教材である。うまくいけば、周囲の人々の理解も大きく進むであろう。
アウトソーシングの活用
前回見たように、UIやUXの設計に必要な、あるいはあったほうがよい知識やスキルは多岐に渡るので、特にUI/UX設計部の立ち上げ時には人員がなかなかうまくそろえられないかもしれない。
また、組織の規模や業務内容的にそうした人材をあまり多く抱えておくのは難しいという事情があるかもしれない。その場合はもちろん、足りない部分は外部の業者などに委託(アウトソーシング)するのも選択肢である。