“スリムな本社”という耳当たりの良いスローガンの下に、本社IT部門に最低限の機能だけを残し、それ以外をシステム子会社やアウトソースに委ねるべきだというのが、あたかも定説のように語られています。ITが経営やビジネスに大きな影響を及ぼすようになった現在においても、この定説は本当に正しいといえるのでしょうか。
スリムな本社の是非
良い会社の特徴として「スリムな本社」が挙げられることが多いのですが、昨今では、過度なスリム化によって、人事部門やIT部門が弱体化している事例を頻繁に目にします。会社全体の収益性の観点からは本社費は小さいほうが望ましいというのは、一見もっともな意見のように聞こえます。
しかし、小さくなった本社費は、事業部門や情報システム子会社に転嫁されているだけではないでしょうか。ややもすると、本社機能を分散したために、オーバヘッドが余計にかかっているというケースも珍しくありません。
本来、本社はしっかり機能して全社的な効率化や社員の活性化を支援するという重要な役割をもっているはずです。グループ経営が重視され、内部統制の観点からもグループ企業をスコープに入れたガバナンスが求められる昨今において、本社機能の重要性は以前よりも格段に高まっているといえます。今一度、「スリムな本社」そのものの論理的な妥当性を疑ってみるという視点も必要なのではないでしょうか。
IT分社化の問題
国内の大手企業のIT組織運営について考える時、情報システム子会社の存在を無視することはできません。ITRの「IT投資動向調査2016」によると、従業員数1000名以上の企業で、情報システム子会社をもつ企業は65.5%にのぼります(図1)。欧米では、情報システム子会社をもつ企業は少なく、何千人というIT部門を抱えた企業が多数存在します。また、外部ベンダーにIT業務をフルアウトソースしていた大手企業が、インソースへ揺り戻すといった事例も報告されています。

(図1)情報システム子会社の有無(出典: ITR「IT投資動向調査2016」)
欧米企業では、本社IT部門がしっかりとした技術力のある部隊をもち、手法の標準化、グループを含む全社的なITアーキテクチャの構想化、R&D(先進技術の評価検証など)、デジタルイノベーションの推進などに取り組んでいます。一方、国内企業の本社IT部門には少数の人員しか配置されていないため、そのような機能をもつことができず、セキュリティ・ポリシー、予算計画および管理といった限定的な領域で統制を効かせることと、事業部門の場当たり的な要求に応えるにとどまっています。また、中長期的なIT戦略の遂行やITインフラの構造改革という視点が不足しています。
そのため、小規模な本社IT部門と情報システム子会社をもつ企業の場合、ITガバナンスやグループ全体のIT推進力という観点からは、本社IT部門とシステム子会社が一体となって運営されることが望まれます。しかし、一体運営によって子会社の独立性・自主性があいまいになり、アイデンティティの確立やモチベーションの維持が阻害されることが問題となります。また、別会社としての発注責任および受注責任という観点、あるいは職務分掌という観点からは内部統制上の問題ともなりえます。