本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、NECの新野隆 代表取締役執行役員社長兼CEOと、アドビシステムズの佐分利ユージン 代表取締役社長の発言を紹介する。
「新中期経営計画ではM&Aも積極化して成長の柱を作る」 (NEC 新野隆 代表取締役執行役員社長兼CEO)
NECが先ごろ、2015年度(2016年3月期)の連結決算と2016年度から2018年度までの新中期経営計画(新中計)を発表した。4月1日に社長に就任した新野氏の冒頭の発言は、その発表会見で、経営トップとして初めて臨む新中計に向けての意気込みを語ったものである。
NECの新野隆 代表取締役執行役員社長兼CEO
新野氏は新中計の基本方針として、「営業利益率5%の実現に向けて“収益構造の立て直し”に取り組むとともに、社会ソリューション事業のグローバル化を推進し“成長軌道への回帰”を図ることで、中長期的な企業価値の向上を目指す」ことを掲げた。
新中計では、2018年度(連結、IFRS基準)の目標数値として売上高3兆円、営業利益1500億円を掲げ、2015年度(同)の実績である売上高2兆8248億円、営業利益914億円から、売上高の年平均成長率で2%増、売上高営業利益率で3.2%を5%へ引き上げるとした。
基本方針に掲げた「成長軌道への回帰」では、まず社会ソリューション事業のグローバル化に向け、これまで強化してきたビッグデータ、クラウド、サイバーセキュリティ、SDN(Software-Defined Networking)の各技術を包含したうえでNECの強みを生かせる「セーフティ事業」「グローバルキャリア向けネットワーク事業」「リテール向けIT事業」の3つを注力事業として選定し、リソースを集中。市場成長の波を捉えて事業拡大を図っていく構えだ。(図参照)
新中計における注力事業の売上高目標
さらに、これら注力事業を拡大するため、M&Aも機動的に実施。M&A枠として2000億円を確保しているとした。
注力事業を3つに絞り込み、リソースを集中するという新野氏の決断と覚悟のほどはひしひしと伝わってきたが、売上高の年平均成長率で2%増、売上高営業利益率で5%という目標数値は、新中計として果たして勢いをつけることができるのか。迫力不足ではないか。そう感じたので、会見の質疑応答で率直に聞いてみた。すると新野氏は次のように答えた。
「数値だけを見るとそういう印象を持たれるかもしれないが、その数値を上げていくために最も重要なのは、グローバル展開においていかに成長に向けた事業の柱を作っていくかだと、私自身のこれまでの経験で強く認識している。新中計ではそのために3つの事業を柱にすべく絞り込み、M&A枠として2000億円を用意した。成長軌道への回帰は、まさに事業の柱をしっかりと作ることにかかっている」