展望2020年のIT企業

後継者問題を解決する社長交代の最適な時期 - (page 2)

田中克己

2016-05-27 07:30

新社長の決意

 次の成長を任された今年44歳になる酒井氏は、「社長に意見を言ったのは私だけ。新参者だったから言えた」と、指名された理由を憶測する。外資系IT企業などでシステム構築を担当した同氏は、PM(プロジェクトマネジメント)に自信を持っている。

 社長になった今もある大型案件のPMを務めるほどの酒井氏が、システムエグゼに転職を決めた1つの理由は、「企業理念が好きだったから」だという。「社員の成長あってこそ、会社の成長がある」とする佐藤氏の「社員を第一」にする考えのことだろう。

 背景には、酒井氏の外資系での経験がある。簡潔に言えば、社員を本当に大切にするかだ「リストラされるのではないか」と不安が募れば、社員は自分のことしか考えなくなる。そこで、酒井氏は社長に就任早々、終身雇用と長時間勤務の解消を社員に約束した。5年後、10年後の自分を考えて、技術力やスキル向上に取り組めるようにするためだ。目先の資格を取得することではない。

 もちろん、ソフト開発会社の将来も考えてのこと。とくに長期間残業によって、技術者が余裕を失ったら開発を失敗させる可能性を高める。「残業を減らし、勉強する時間を増やし、新しいアイデアを生みだす」という好循環を生み出す人事制度に改正もする。「終身雇用といっても、年功序列ではない。実力主義を徹底し、仕事をした人には正当な給与を支払う」(酒井社長)。

 次世代リーダーの育成にも取り組む。システム構築事業の基本は、人材である。酒井社長は4年ほど前からPM塾を開き、社員の塾生数人に毎月課題を出し、助言したり、指導したりする。PMの人数が受注できる件数に大きく影響するからだ。

 佐藤会長も、幹部社員に「決断した理由」を明確に説明できるよう、「論語」から学ぶ指導をしている。他の役員にも、社員の成長に役立つ塾を開く。その先に、「世界に通用するIT企業に成長する」酒井社長の夢がある。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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