IBMに続いてマイクロソフトが「コグニティブ」という言葉を使い始めた。AI(人工知能)技術を活用した注目分野を指すが、意味が分かりづらいとの声も。果たして市民権を得る言葉になるか。
マイクロソフトが「コグニティブサービス」を提供開始
「皆さんにはこれから、当社が用意したコグニティブAPIをどんどん活用していただきたい」――米MicrosoftのSatya Nadella CEOは5月24日、日本マイクロソフトが都内ホテルで開催した開発者・IT技術者向けの自社イベント「de:code 2016」の基調講演でこう呼びかけた。
自社イベント「de:code 2016」で基調講演を行う米MicrosoftのSatya Nadella CEO
コグニティブAPIとは、マイクロソフトがこのほど本格的に提供し始めた「マイクロソフトコグニティブサービス」のことである。具体的には、同社がこれまで研究開発に取り組んできた「Vision(視覚)」「Speech(音声)」「Language(言語)」「Knowledge(知識)」「Search(検索)」の5つのコグニティブ(認知)領域における各種APIを、クラウドサービス「Microsoft Azure」を通じて提供するものだ。Nadella氏によると、現在22個のコグニティブAPIを用意しているという。
ちなみに、マイクロソフトのAI技術といえば、Windows 10に搭載されたパーソナルアシスタントの「Cortana」や、LINEチャットの相手をしてくれる“女子高生AI”チャットボットの「りんな」が一般ユーザーの間で話題を呼んでいるが、これらも上記のコグニティブAPIの中から必要なものを組み合わせて、同社がアプリケーションとして提供しているものである。
Nadella氏は講演で、「これからは全てのビジネスがデジタルに移行していく。このデジタル変革にマイクロソフトコグニティブサービスを大いに活用していただきたい」と強調した。
IBMが“コグニティブ仲間”づくりに乗り出した?
「MicrosoftのNadella CEOが昨日、自社イベントの講演でコグニティブサービスに注力すると話していたと聞いた。
IBMは昨年来コグニティブコンピューティングを強力に推進しているが、ここにきて複数のグローバル企業が“コグニティブ”という言葉を使い始めており、これからさらに世の中に浸透していくと確信している」――日本IBMのポール与那嶺社長は5月25日、同社が都内ホテルで開催した顧客向けの自社イベント「IBM Watson Summit 2016」のオープニングスピーチでこう語った。Nadella氏の前日の発言に触れたのは、後に述べる理由があったからだ。
自社イベント「IBM Watson Summit 2016」でスピーチを行う日本IBMのポール与那嶺社長
IBMではコグニティブコンピューティングを「人間が話す自然言語を理解し、根拠をもとに仮説を立てて評価して、コンピュータ自身が自己学習を繰り返して知見を蓄える技術を活用した、コンピューティングの新しい概念」と定義付けている。そして、それを具現化したコグニティブソリューションが「IBM Watson」である。
与那嶺氏はWatsonについて、「単なる開発ツールではなく、業種ごとのソリューションとして実績を上げつつある。すでに実用段階にあるのが最大のアドバンテージだ」と強調した。ちなみに、APIについては現在28個用意しており、今年内に50個まで増やす計画だという。
ただ、昨年来コグニティブコンピューティングを推進してきたIBMにとって大きな課題となっていたのは、コグニティブという言葉そのものの“認知”を広げることだ。
その意味では、与那嶺氏の発言にあるように、複数のグローバル企業が使い始めたことは同社にとって歓迎すべき動きだろう。同氏が紹介した米IBMのGinni Rometty CEOの“コグニティブ仲間”メッセージ(図)がそれを象徴している。中でもマイクロソフトが名を連ねたことは、IBMからすれば心強い限りかもしれない。それをRometty氏のメッセージで見せるあたり、IBMもしたたかだ。与那嶺氏がNadella氏の前日の発言に触れたのも同じ文脈である。
米IBMのGinni Rometty CEOの“コグニティブ仲間”メッセージ
マイクロソフトが“仲間”になったとはいえ、コグニティブという言葉が広く浸透するかどうかはまだ分からない。与那嶺氏もスピーチで、「まだ皆さんは聞き慣れない言葉かもしれないが、ぜひ慣れていただきたい」としきりに呼びかけていた。
とりわけ、全社を挙げてコグニティブビジネスにまい進することを明言しているIBMにとっては、何としても浸透させたいところだろう。果たして市民権を得る言葉になるか、注目しておきたい。